愛しき花
94
自分はやはり場違いなのではないか。
そんなことを考えながら、キラはギナの体の影に隠れるようにしていた。
「もっと堂々としておれ」
苦笑とともにギナが声をかけてくる。
「無理です……」
これがカレッジであれば大丈夫だ。しかし、ここにいるのは国政を担う者達だけと言っていい。
何よりも、とキラは顔をしかめる。
自分に向けられる憎しみの視線には耐えられない。
「無粋な者がおるから、仕方がないか」
当然、彼もそれに気づいていたのだろう。低い声でそう告げる。
「私のそばについておれ。ただし、背筋は伸ばすのだぞ?」
さらに彼はこうささやいてきた。
「ギナ様?」
「もし、我らに何かあれば、サハクの名を継ぐのはお前だからな」
いきなりとんでもないセリフを彼は口にしてくれる。ここでなければ大声を上げていたところだ。
「……カナードさんじゃないんですか?」
代わりにこう問いかける。
「あれは表に経つより裏の方がよいと言い切りおったからな。姉上も私も同じ気持ちだ」
他の者もそれでいいと行っている。彼はそう続けた。
「もっとも、我らも当面、首長の座を降りるつもりはないがの」
その間にミナに子を産んでもらえばいい。そう言ってギナは笑う。
「だから、お前はあまり気負うな。ただ、今はそういうことになっていると知っておけばよい」
彼のこの言葉にどう反応を返せばいいのか。キラにはすぐには思い浮かばない。
「それに、そうしておけばカガリがおとなしいからの」
一番の目的はそれなのだろうか。
「あれもまだまだだからな。当面はおとなしくさせておかねばならん」
口実になれ、と付け加えられて、キラは小さく頷く。
「よい子だ」
ギナはそう言うと彼女の髪をなでてくれる。
「それにしても、遅いの。いい加減、始まってもよい頃であろうに」
予定ではもう始まっていたはずだ。しかし、まだ誰も顔を見せない。
「何かあったのでしょうか」
「誰も知らせに来ぬ。心配いらぬとは思うが」
そんなことを言っていれば、ようやく代表達の姿が確認できる。
「……あっ……」
「ほぉ」
何とか隠しているが、地球連合の代表の頬が赤い手形が刻まれていた。きっと、何かをしでかしてカガリかミナにやられたのだろう。
「後で確認しておくか」
まぁ、大事ないようで何より。ギナはそう言って低い笑いを漏らす。
「でも、あれって、写真に写るんじゃ……」
「そのくらいは修正させるであろう」
その程度、さほど手間はかからない。彼はそう付け加える。
「言われてみれば、そうですね」
自分でもやろうと思えばすぐにできし、とキラは頷く。
「修正なしの方がおもしろいであろうがな」
間違いなく本気でそう言っているに決まっている。
「そういえば、アスラン達は……」
自分でもわざとらしいなとは思う。それでも、他にギナの意識をそらす方法を思いつかなかった。
「本当に、お主はかわいいの」
その意図がわかったのだろう。ギナはそう言って静かに笑った。
その日、終戦が確定した。