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「退屈ですか?」
ラクスがそう問いかけてくる。
「そう言うわけじゃないけど……」
キラは苦笑とともに言葉を返す。
「では、どうなさいました?」
「……なんて言うか……静かだな、って思って」
戦争が終わったからだろうか。それとも、あれだけ近くにいてくれた人々と距離ができたせいか。周囲がものすごく静かに感じられる。
「仕方がありませんわ。皆様、後始末に大わらわですもの」
終戦条約は締結した。しかし、それ以外のことはこれから煮詰めていかなければならない。
それと同時に、ザフトも再編しなければいけないのだ。
「それはわかっているんだけど……何というか、僕だけ、することがない」
一応、オーブからプラントへ留学していることになってはいる。しかし、肝心のカレッジが再開されないのだ。
「来週には始まると思いますけど」
終戦になったことで、ザフトからカレッジに復学を希望している者達もいる。全員がすぐに認められるわけではないが、けがをした者達は優先的に認められているとか。
彼らの受け入れの都合もあるらしい。ラクスはそう教えてくれる。
「キラはわたくしと同じクラスですわ」
「ラクス?」
「お父様達が『その方がいいだろう』と判断されましたの」
キラのフォローのためにも、と彼女は続けた。
「わたくしもその方が安心ですし」
さらに彼女は言葉を重ねる。
「僕もラクスが一緒なら安心よ」
キラはそう言って微笑み返す。
「アスランもあれこれ言ってこないだろうし」
「まぁ……それはアスランですから」
あきらめるしかないだろう。ラクスはそう言ってくる。
「二人分だと考えれば仕方がないのかな」
カガリの分もアスランがあれこれと世話を焼こうとしているのだ。キラはそう考えようとする。
「……でも、やっぱり、ちょっと鬱陶しいかも」
だが、すぐにこう呟いてしまう。
「あの人も、少しは加減をすればよろしいのに」
それができないからアスランなのだろうか。ラクスはそう言って首をかしげる。
「イザークも同じような性格ですから、仲が悪いのは同族嫌悪ですわね」
困ったものです、と彼女は続けた。
「仕方がないよ。妙なところだけ頑固だから、アスラン」
もう少し柔らかくなればいいのに、とキラは言い返す。
「でも、カガリとセットだとちょうどいいのかな?」
そう付け加えると首をかしげる。
「これからですわね」
あれこれと勉強していく中で変わっていくのではないか。ラクスはそう言って微笑む。
「そう言うキラはどうなのですか?」
「僕?」
「シンとデートをされたと聞いたのですが?」
カガリが『確かめてほしい』と言ってきたのだ、とラクスは言う。
「……カガリ……」
何を考えているのか、とキラはため息をつく。同時に、後できちんと話をしなければ、と決意した。
「心配しているのですわ」
「でも、ある意味大きなお世話だよね」
自分のことは自分で決める。相談するにしても、カガリではなくサハクの双子か、身近にいてくれるラウだろう。
「僕は僕だから」
そう言うと同時に、シンの声が耳に届く。どうやら、迎えに来てくれたらしい。
「そういうことにしておきましょう」
ラクスが言葉とともに笑いを漏らす。
「時間はありますしね」
「そうだね」
彼女の言葉にキラはうなずき返した。そして、シンを迎えるために立ち上がる。
「では、また明日、お話ししましょう」
「うん、またね」
そして、キラはゆっくりと歩き出した。
終