愛しき花

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「そうだ」
 ふっと思い出したようにラウが口を開く。
「警備の見直しをしたい。すまないが、そちらの担当者にそう伝えてくれるかね?」
 ひょっとして、彼はそれを伝えに来たのだろうか。
「……わざわざお前が来なくても、誰かに伝言を頼めばいいだろうに」
 自分とは違って暇ではないのだろう、とムウは言外に付け加える。
「それではキラの顔を見られないだろう?」
 あきれたように彼は言い返して来る。
「それに、あの二人に話しもあったしね」
 ラウは意味ありげな笑みとともに言葉を重ねた。
「んじゃ、キラはいったん連れ出した方がいいな」
 ムウがため息混じりにそう言う。
「……その方がいいだろうな」
 彼女に怖がられるのはさすがにいやだ。これがアスランをはじめとする部下やカガリであればあまり配慮はしないのだが。きっと、幼い頃の経験のせいだろうな、とラウは判断する。
「じゃ、それについては俺が引き受けるとして」
 伊達にそれなりの時間をともに過ごしていない。ムウはさっさと非難する算段を建てたようだ。
「あまり長時間は無理だぞ。今のキラの様子だと」
 シンの鼓動がいつ止まるかわからない。だから離れていたくないのだ。彼女はそう考えているらしい。
「……ふむ……宇宙空間に生身で放り出してやりたいところだが、裁判が控えている以上無理だな」
 ならば、どうしてやろうか。
「せいぜい、救命カプセルに突っ込んで放置しておくだけにしておけ。あぁ、ザフトの艦で曳航しておけよ」
 いいわけならいくらでも考えつくだろう、と彼は笑う。
「なるほど。いい考えだ。後で許可をもらっておこう」
 馬鹿を周囲と接触させないため、と言うだけでも十分だ。ミナかギナに話をすれば無条件で許可をもらえる。そして、パトリックものそのくらいは黙認してくれるはずだ。
「ついでに、押し込む前に脅しておくか」
 さらにそう付け加える。
「ほどほどにな」
 苦笑とともにムウはそう言い返してくる。そのまま彼はカガリへと視線を向けた。
「任せる」
 そうすれば彼女は一言だけ口にする。
「了解」
 にやり、と笑うとムウは彼女の頭に手を置く。
「やばそうになったら、お前も適当なところで逃げろよ」
 アドバイスになっているのかいないのかわからない言葉を残すと、そのまま部屋に入っていった。
「私がカガリに何をすると思っているのかね」
 ため息とともにラウはそう言ってみせる。
「失敗をすれば苦言を呈するのは当然としても、それ以外でいじめた記憶はないのだが」
 真顔でそう呟く。
「まぁ……そう言うことにしておきましょう」
 しかし、カガリはこう言ってため息をついて見せた。
「カガリ?」
「ラウさんは基本的にキラ以外には厳しいですから」
 特に部下には、と彼女は言い返して来る。
「おや。そうだったかね?」
「そうだと聞いていますが?」
「それは単に、同じことを二度三度言わせる人間が悪いと思うがな」
 一度目は厳しくしていないつもりだ。ラウはそう言う。
「……そうですね」
 カガリが微妙な口調でそう口にした。
 まるでそれを待っていたかのように部屋の中からキラが出てくる。同時に、彼女の瞳がラウをとらえた。
「ラウさん」
「何かな、キラ」
「あまり、シンをいじめないでくださいね……けがが治るまでは」
 最後の一言はどういう意味だろうか。
「けがが治ってからならいいのかね?」
「訓練の範囲内にしておいてくださいね」
 これは誰の影響なのだろうか、と心の中で呟く。同時に、強くなったな……と感心していた。

 その日、シンが熱を出した理由は、決してラウだけではないだろう。

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最遊釈厄伝