愛しき花
92
「とりあえず、シンにはお小言だな」
キラを守るためにはしかたがなかったかもしれない。しかし、他にも方法があったはずだ。
「そうだな」
ムウの言葉にカガリも頷く。
「毎回これじゃ、キラを安心して任せられないし」
彼女の言葉にムウは苦笑を返した。
「最初から計画済みか?」
自分の知らないところで、と彼は続ける。
「不本意だが、消去法だ」
他に適当なのがいなかった、とシン本人が聞けば怒り出しそうなセリフをカガリは口にする。
「何よりも、キラが一切遠慮しない相手だからな」
それが一番だ、と続ければムウもすぐに「そうだな」と同意をしてくれる。
「未熟な点は叩いて成長させればいいし、とミナ様が言っておられたし」
確かに、当面は自分達がフォローすればいい。キラが他の誰かを選ぶという可能性だって、まだ残っているわけだし。
「不幸な予言を」
「本当のことだろう?」
キラにだって選ぶ権利がある、とカガリは真顔で口にした。
「確かにな」
さらに、今まで黙っていたアスランが口を開く。
「もっといい相手がいそうだしな」
もっとも、自分の同期は却下だ。彼はそう続ける。
「あいつらは顔と家柄はいいが、性格が悪い」
さらに彼はそう付け加えた。
「もっとも、あの隊長では仕方がないのかもしれないが」
自分も人のことは言えない自覚がある、とアスランは苦笑を浮かべる。
「自覚しているのはいいことだね」
言葉とともにラウが彼の肩を叩く。同時に、アスランが硬直したのがわかった。
「お前なぁ……気配消してくるなよ」
カガリがびっくりとしているだろう? とムウが笑いながら言う。
「それは悪いことをしたね」
アスランを無視してラウがカガリに笑みを向けてくる。
「まぁ、私はいいですけどね。キラにはやめておいてください」
カガリはそう言い返す。
「あいつはそっち方面の訓練を受けていませんから」
「わかっているよ」
彼女の言葉にラウは微笑みながら頷く。
「あの子にはあのままでいて欲しいからね」
そう口にするラウの表情は優しげだ。それを見て、アスランが微妙な表情を作っているのはどうしてだろうか。
「ともかく、キラの顔を見たら戻るとしようか」
アスランも、とラウは続ける。
「ついでに、シンを脅しておくべきかね?」
さらに彼は付け加えた。
「……今日のところはやめておけ」
ため息混じりにムウが言い返す。
「何故だね?」
「キラが気に病むからだ」
彼女の性格であれば、下手をすれば今回のことは自分のせいだと思い込みかねない。そのせいで部屋から出なくなったらどうするのか。ムウはラウにそう問いかける。
「……確かに、それはまずいね」
「だからお前があいつにお小言を言うなら、キラの見えないところでやれ」
ばれなければいいのだ。そう言うムウに、ラウは笑みを浮かべる。
「参考にさせてもらおう」
失敗したときには貴様の名前を出させてもらおう。そう続ける彼は、やはり彼だった。