愛しき花

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 アスランの見立て通り、シンのけがはさほどひどいものではなかった。それでも、二三日は腕を動かすのはやめておいた方がいいだろう。
 その間、シンのフォローは自分がするつもりだった。
 しかし、何故かキラに押し切られてしまった。
 それどころか、部屋から追い出される始末。その事実にレイはショックをきん得ない。
「あきらめるんだな、レイ」
 この言葉とともにムウの手がレイの頭をぽんぽんと叩く。
「お前の世話が信用できないというわけじゃない。単に、キラが自分で確認しないと安心できないだけだ」
 さらにカガリがこう付け加える。
「理由を聞いてもかまわないか?」
「当然の権利だろうな。もちろん、私もお前には話さないといけない、と思っていたが」
 アスランの問いかけに彼女はそう言い返す。
「お前も、キラの幼なじみだからな」
 知らない方がショックだろう。そう言いながら、彼女は拳を握りしめていた。
「カガリ」
 その手を取ると、アスランは強引にその手を開かせる。案の定というか、手のひらには爪の後がしっかりとついていた。
「まずは落ち着け」
 ムウがこう声をかけている。
「ちょっとしたけがでも、今のキラには逆効果だろう?」
 違うのか、と彼が問いかければカガリは渋々頷いて見せた。
「それで?」
 彼女が一ついたと判断したところで、アスランはこう問いかける。
「あいつがいなくなってすぐぐらいかな。ヤマト家に強盗が押し入った」
 そして、キラの両親を殺した。その話が自分も知っている。だから、自分はオーブ――キラのそばへと向かったのだ。
「だが、それは見せかけだったんだ」
 見せかけ、と言うのはどういうことだろうか。そう思いながらカガリの次の言葉を待つ。
「あいつらの目的は《キラ》ダッタンだよ。おじさま達はそれの障害になるから殺した。連中はそう言っていた」
 それも、キラの目の前で。彼女の言葉にアスランが一瞬目を見開く。
「事態を察したギナ様とカナードさんが駆けつけたが、紙一重の差で間に合わなかったらしい」
 あと五分早ければ、二人とも助けられていたはずだ。それでなかったとしても、キラをあそこまで追い詰めなかっただろう。
「もっとも、あいつはそれを覚えていないが」
 全てを記憶の奥へと沈めている。いずれ思い出すかもしれないが、今はそうさせない方がいいだろう。
 カガリはそう締めくくる。
「だからか。あいつらの過保護ぶりは」
 ムウが納得したというように頷いて見せた。
「俺のところに届いた報告は、最初のあれだけだったからな」
 変えるわけにはいかなかった以上、仕方がないのか。彼はそう続ける。
「ラウは知っていたはずだがな」
 カガリはそう言って苦笑を浮かべた。
「だから、そいつが派遣されてきた。そういうことだ」
 言葉とともにカガリはレイを指さす。
「おかげで、いろいろと助かったが」
 彼女はそう言って笑う。
「私達は下手に動けなかったしな」
 さらに彼女はそう付け加えた。
「……本当はシンがよかったんだが、あいつは連れ戻せば殺される可能性もあったからな」
 本当に厄介だ、と彼女はため息をつく。
「それも、今回で終わってくれればいいが」
 さすがに手駒がなくなったのだろう。ユウナを引っ張り出してきたのは、と彼女は続けた。
「それがフェイクという可能性もあるのが厄介だがな」
 ムウがこう言う。
「ともかく、さっさと調印を終わらせて、あいつをプラントに行かせるのが一番安全か」
 思い切り不本意だが、と彼女は言った。
「安心しろ。その間はちゃんと甘やかしておく」
 アスランがそう言って笑う。
「……お前は」
 言葉とともにカガリはアスランの足を思い切り踏みつける。それでも平然と笑っている彼はすごいと、レイは初めて思った。

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最遊釈厄伝