愛しき花
88
いきなりアスランが立ち上がった。そのまま、彼は部屋を出て行こうとする。
「待機だぞ、アスラン」
ミゲルが即座に声をかけた。
「キラから緊急コールだ」
何かあった、と彼は言い返している。それを聞いた瞬間、シンもまた立ち上がっていた。
「どこです?」
無意識のうちにこう問いかけてしまう。
「展望室とオーブの控え室の間の通路だな」
ポケットから取り出した機会を確認すると、アスランはそう言い返してくる。同時に彼はそれをシンの方へと放り投げた。
「お前たちは先に行っていろ。俺は隊長に報告してから追いかける」
アスランはそう指示を出してくる。その表情に『面倒くさい』としっかりと書かれていた。
きっと、全てを放り出して駆けつけたいのだろう。今、キラはカガリと一緒にいるはずなのだ。
それでも、ラウは無視できないのだろう。
「了解しました」
言われなくてもと思うが、候補生とはいえ軍人だ。勝手な行動はとれないと言うことだろう。
「レイ」
「あぁ。急ぐぞ」
頷きあうと、そのまま部屋を出て行く。
「少し遠いな」
場所を確認して、シンは小さな声で呟いた。
「走るか?」
レイが問いかけてくる。
「それしかないだろうな」
全力疾走したとしても間に合うかどうか難しいところだ。それでも、間に合わなければ意味がない。
「どちらが先にキラさんのところに行くか、勝負だな」
レイがとんでもないことを口にしてくれる。
普段ならば、そんな勝負を引き受けることはない。だが、今はそんなことを考えている余裕もなかった。
「じゃ、先に行く」
言葉とともにシンは駆け出す。
「待て!」
レイもすぐにシンを追いかけてきた。
「失礼します」
返事も待たずにアスランが踏み込んでくる。
「どうしたのだね、アスラン」
ラウが即座にこう問いかけた。
「キラとカガリが危険な状態に襲われているようです。救援に向かいます」
許可ではなく確認か。だが、彼にしてみれば当然の感情なのだろう。
「わかった。一人でだいじょうぶかね?」
おそらくあの二人にはムウあたりがついていると思うが。
「すでにアスカとバレルが先行しています」
二人は正式な軍人ではないから、許可は必要はないと判断した。アスランはそう言い返してくる。
「わかった。無理はしないように」
大事にするな、と言外に付け加えると、アスランは頷いて見せた。
「では、失礼します」
言葉とともに彼はきびすを返す。そして、そのまま出て行った。
「……どうやら、安心しすぎていたようだな」
パトリックがそう呟く。
「あるいは、あちらも最後の悪あがきをしているというところなのかもしれません」
ラクスが静かに口を開いた。
「わたくしではなくカガリとキラ様を狙ったのは、あの二人が今回の立役者だからでしょうね」
正確にはキラが、だ。
「間に合えばよいが」
シーゲルがため息とともに言葉を口にする。
「大丈夫だと思います」
意地でも間に合わせるだろう。ラウはそう信じていた。