愛しき花

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 彼女達の行方を遮るかのように通路にふらりと人影が現れる。
「マジで家庭内害虫だったか」
 その姿を認めた瞬間、カガリはこう呟いてしまう。
「ともかく、お前はこっちに来い」
 ムウの邪魔になる、と言うと同時にキラの体を自分のように引き寄せる。
「うん」
 こういうときにわがままを言わない方がいいと判断したのだろう。キラは素直に指示に従ってくれた。
「シン達を呼んだ方がいいかな」
「呼べるのか?」
「アスランがアラート装置を作ってくれたから」
 カガリの問いかけにキラはあっさりと答えをくれる。
 さすがはアスラン、とカガリは微妙な感想を抱く。
 別段、彼が悪いわけではない。確かにキラには必要なものだ。そして、彼ならばその程度のものは簡単に作れるだろう。
 しかし、だ。
 自分には何も作ってくれたことはない。
「そうか」
 とりあえず、この場を無事に逃げ出すことが優先だ。アスランへの嫌がらせはその後で考えよう。
「じゃ、呼んどけ」
 ムウのフォローには役者不足でもキラの盾ぐらいにはなる。カガリは冷静にそう判断した。
「ついでにアスランも来れば話は早いが……」
 いろいろと、と彼女は呟く。
「アスラン? 確かに、ザフトの人間がいれば説明の手間が省けるとは思うけど」
 キラがすぐに言葉を返してくる。しかし、その内容は見事に的を外していた。もっとも、そう言うところがかわいいのだが。
「他にもいろいろとな」
 それについては全てが終わってからだ。カガリはそう締めくくる。
「それにして、ずいぶんとみすぼらしくなって」
 話題をそらすかのようにこういう。
「そういえば、おしゃれだけは気を遣っていたっけ」
 他のことは他人任せだったのに、とキラが口にする。
「よく知ってるな」
 滅多にあわなかったのに、とカガリは言い返す。
「自慢されたから」
 いやそうな表情で彼女はそう言った。
「全部、お前たちが悪いんだ!」
 それに続くようにユウナの叫び声が耳に届く。
「あいつらを呼ぶなら早々に呼んだ方がいいかもな」
 どうも、目の前のユウナはおかしい。自分達が知っているあの男ではないのかもしれない。
「うん」
 そう言うと同時にキラはポケットから手のひらほどの楕円形のものを取り出した。その中央にスイッチらしいボタンがある。ためらうことなく、キラはそれを押した。
「問題は、間に合うかどうかだけど」
「間に合わせるだろう、意地で」
 キラの言葉にカガリはこう言って笑う。
「でなければ、ギナ様どころかミナ様にしごかれるぞ、あいつら」
 それはそれで楽しいかもしれないが。そう考えてしまう自分に、カガリは苦笑を禁じ得ない。もちろん、それをキラに悟らせるはずがないが。
「……怖いね、それは」
 ため息とともにキラはそう言い返してくる。
「間に合ってくれるといいね」
 キラがそう呟く。
「そうだな」
 いろいろな意味で、とカガリも頷いて見せた。

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最遊釈厄伝