愛しき花
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久々に見る地球はやはりきれいだと思う。
「……もう二度と、戦争なんて起きなければいいのに」
キラが小さな声でそう呟く。
「そのために、オーブという国があるんだ」
それにカガリはこう言い返す。
「馬鹿は駆逐したし、もう大丈夫だろう」
彼女はさらにそう付け加えた。
「馬鹿って、セイラン?」
「あぁ。あれこれとやらかしてくれていたようだからな。国家反逆罪に相当する内容もあったらしい」
言い逃れできないほどの証拠をミナがそろえていた。カガリがそう教えてくれる。
「本当、怖い方だよな。完全に逃げ道を塞いでいたらしい」
ウナトもあれでは言い逃れできなかっただろう。その言葉に、キラは首をかしげる。
「どうした、キラ」
「そういえば、ユウナって掴まったのかなって」
逃げられたという話を聞いたことがあるが。キラはそう付け加える。
「そういえば、肝心の馬鹿はどうなったんだ?」
自分も捕まえたとは聞いていない。カガリはそう言って頷く。
「……まずくない?」
「まずいかもな」
あれでも妙な行動力だけはあるのだ。しかも、某家庭内害虫並に進出奇抜だと言っていい。
「ギナ様達のところに戻るか」
何があるかわからないから、とカガリは言外に告げる。
「そうだね。それがいいと思うよ」
キラもうなずき返す。
「こういうときにカナードさんがいないのはきついな」
彼は今、ギナの指示で動いている。だから、自分達の護衛はオーブの軍人が担っているのだ。
そして、ザフト側も今は別行動を取っている。
「ムウさんがいてくれるだけ安心だけどね」
そう言いながらキラは視線を移動させた。そうすれば、壁際に立っていた彼が小さく手を振ってみせる。そのまま壁を離れると彼はゆっくりと歩み寄ってきた。
「と言うことで、戻ると言うところでいいんだな?」
ムウはそう問いかけてくる。
「あぁ。可能性は低いとは思うが、万が一の可能性があるからな」
カガリはそう言い返す。
「私一人なら何とかなるが、キラが一緒ではまりきれる自信がない」
さらに彼女はそう付け加えた。
「……私だって、一応、コーディネイターなんだけど」
キラはそう口にしてみる。
「コーディネイターであることと戦闘能力は別物だから」
カガリはそう言うと苦笑を浮かべた。
「確かに。その通りだな」
ムウもそう言って頷く。
「こればかりはきちんと訓練を受けたナチュラルの方が訓練を受けていないコーディネイターより強いぞ」
カガリがよい例だ、と彼は笑う。
「と言うことで、戻るぞ」
そろそろミナが文句を言いかねない。その結果、被害を受けるのは自分だ。ムウは真顔でそう呟く。
「全く……戻ってきたばかりなのに、こき使ってくれるよな」
彼はため息とともにこう言ってくる。
「あきらめるしかないだろうな」
カガリが即座にこう言った。
「ずーっと計画を立てていたみたいだしね」
キラもそう言って頷く。
「……勘弁してくれ」
そう呟く彼に、キラ達は思わず笑いを漏らしてしまった。