愛しき花
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「久々にキラの顔を見られるかな?」
ミナはそう呟く。
「またあちらに戻さなければならぬとはいえ、式典に最大の功労者の姿がないのはな」
そのあたりのことはギナも考えているだろうが、と付け加える。
「……問題は護衛態勢か?」
ウズミがそう問いかけてきた。
「カナードを専属につければよかろう。ムウでもよいが、あれは表に出さぬ方が良さそうだしの」
地球軍でも彼の顔を知っているものは多い。いや、英雄視していると言うべきか。
そんな彼が実はオーブのスパイでした、などと言うことになれば暴動すら起こりかねない。
「仕事はたくさんあるがな」
にやりと笑いながらミナはそう言う。
「せいぜいこき使ってやろう」
彼女はさらに付け加えた。
「……ほどほどにな」
苦笑とともにウズミは口を開く。
「いずれはキサカとともにカガリのフォローに回ってもらう予定なのだが」
「わかっておる。あれにはナチュラルとコーディネイターの橋渡しを任せればよかろう」
弟たちでなれているはずだからな。ミナはそう言って頷く。
「その頃にはキラも戻ってきておればよいが」
彼女はそう続ける。
「あぁ、そうだ。あちらで変な虫がつかぬよう、パトリックと話し合っておかねばならんな」
キラの結婚相手はオーブの人間でなければいけない。いや、最低限でもオーブで暮らしてもらわなければいけない。
「それは当然のことだな」
カガリのわがままを抑えるにはキラの存在が一番だ。だから、とウズミも頷く。
「そのためにも、今回の調印は成功させなければな」
彼の言葉にミナもうなずいて見せた。
「……シンの軍服もレイのそれも、初めて見た」
キラがそう言って目を丸くしている。
「軍服じゃないけどな、正確には」
「まだ、訓練生扱いですから」
二人はすぐにこう言い返してきた。
「その気になれば、すぐにザフトの一員になれるがな。それでは一般兵扱いだ」
アスランが口を挟んでくる。
「それではもったいないか」
さらにイザークもだ。
「確か、上位だったよな」
作戦に参加するまでは、とディアッカも頷く。
「二人とも、復学すればすぐにトップ10を確保しますよ。今までの経験もありますから、次の卒業グループに入れるでしょうね」
ニコルがこう言って微笑む。
「そうでなければ、これ以上はキラの護衛を任せらないがな」
締めくくりというようにカガリが言葉を口にした。
「……そうなの?」
このセリフは予想外だった。そう思いながらキラは聞き返す。
「今までは軍人になれば前線に出される可能性が高かったからな。それならば、自由に動けるように中途半端な立場に置いておいた方がいいというのが私達の判断だった」
しかし、とカガリは続ける。
「これからはある程度ザフトの連中にも文句を言える立場になってもらった方がいろいろと楽だからな」
ラウに連絡を取るにも軍に直接連絡が取れるはずだ。ついでにMSの操縦も身につけさせるし、と続ける。
「それに関しては、俺がたまにしごいてやろう」
にやりと笑いながらカナードが口を挟んできた。その瞬間、二人の顔色が悪くなる。
「キラの護衛をするなら当然だな」
ギナ相手でないだけマシだと思え。アスランが苦笑とともにそう言う。
「……ギナ様よりミナ様の方が怖いと思うけど」
キラは思わずそう言ってしまった。
「確かに」
即座にカナードが頷く。
「……なんて言うか……女性陣、強いな」
自分達の身の回りの、とシンが口にする。
「いろいろな意味で、な」
レイもそう言って苦笑を浮かべた。
「あきらめるしかないが」
「確かに」
そう言って二人は頷きあう。そんな彼らのようすを、キラは意味がわからないと言うように首をかしげながら見つめていた。