愛しき花
84
翌朝には、もう、今までの生活が戻ってきていた。もっとも、ラウはまだザフト本部から帰ってきてなかったが。
「後始末が長引いておるのだろうよ」
ザフトの中にもかなりブルーコスモスが潜んでいたらしい。そのために、指揮系統が一部混乱したままだとか。
「詰めが甘かった、と言うべきかの」
ギナはあっさりとこう言う。
「ブルーコスモスの方が巧妙だったのではなく?」
こう問いかけたのは意外なことにラクスだった。さすがの彼女も自国をおとしめられては無視できないのかもしれない。
「調べれば、ルーツがどこにあったか確認できたぞ。我らでもできたのだ。プラントという国ができぬはずがなかろう」
それを怠ったのだから何を言われても仕方がない。ギナはそう言った。
「お前たちが同胞を信じたいと思っているのは知っておるがな」
だが、地球ではコーディネイターであることで差別をされる。表だって行われていないが、オーブだってあるのだ。
「コーディネイターに生まれたから差別される。それはナチュラルからではない。第二世代のコーディネイターからもやはり見下される。それが第一世代だからの」
そこにつけ込むのがブルーコスモスだ。
「……それなら」
キラがこう言いながら首をかしげる。
「こちらに来てからブルーコスモスに染まる人もいたの、かな?」
自分はそんな差別を受けたことはない。だが、ようやく同胞達のいる世界に来られた。そう思ったところで、同じコーディネイターからも差別される。
それは希望を打ち砕くのに十分なのではないか。
そこに甘い言葉をささやかれたらどうなるのか。答えは分かりきっているような気がする。
「それは盲点でしたわ」
ラクスがため息をつく。
「後でお父様達に相談しておかないと」
さらに彼女はこう続けた。
「ラクスさん?」
何を言っているのだろうか、と言うようにキラは彼女を見つめる。
「深く考えるな。そいつにはそいつの役目があるだけだ」
自分が気づかなかった問うことにショックを受けているんだろう。カガリがこう言ってくる。
「プラントで俺たち世代は、ほぼ第二世代ですからね」
レイがこう言った。
「オーブだと結構いたけどな。キラもそうだし」
「ギナ様とミナ様もだよね」
シンの言葉にキラが補足するように頷く。
「確かにの。まぁ、第一世代は才能に差があるが」
優秀なものがいるが、逆にナチュラルに毛が生えた程度のものもいる。
そのせいで第二世代の者達が第一世代全員を一段したに見ていることが多い。さすがに自分達の親世代には言えないようだが。
だからこそ、同年代のものには遠慮なく言うのかもしれない。
「本気で考え方を変えさせなければいけませんわね」
ラクスがため息混じりにそう言った。
「でなければ、キラ様を安心してお預かりできませんわ」
「問題はそこか?」
さらに重ねられた言葉にカガリが突っ込みを入れる。
「そうです。それ以外に何があると?」
即座にラクスはそう言い返した。
「わたくしにとって大切なのは、今、この場にいるお友達ですわ」
他の者達に関してはおまけだ。そう続ける。
「……まぁ、いいけどな」
カガリはそう言って引き下がった。
「キラさえ無事であればよかろう。すぐにオーブには連れ戻せぬであろうしの」
残念だが、とギナは言う。
「どうしてですか?」
カガリが問いかけた。
「こちらと違って、オーブではまだブルーコスモスがいるかもしれんからの。かといって、アメノミハシラに閉じ込めておく訳にもいくまい」
徹底的に掃除を終えるまでは預けておくしかないだろう。ギナはそう言う。
「パトリックが全面的に責任を持つと言っておったしの」
ラウもいる。たまにカナードに様子を見に来させればいいだろう。
「完全に平和になるまで、我慢するしかないな」
カガリがそう言ってため息をついた。