愛しき花
83
事態が収拾したのは夜になってからのことだった。
「……キラさんは?」
呼びされていたレイが顔を出すと同時にこう言ってくる。
「眠っている」
そう言いながら、シンは自分の膝を指さした。柔らかくはないだろうそれを枕にキラは静かに寝息を立てている。
「眠っていてくれたならまだましか」
レイはそう呟いた。
その理由はわかっている。眠れると言うことは精神がまだぎりぎりまで張り詰めていないと言うことだ。と言っても、あまり楽観視できないだろうが。
「そういえば、みんなとは連絡ついたのか?」
ふっと思い出したというようにシンは問いかける。
「ラウ経由でな。全員無事だそうだ」
もっとも、後始末で今日帰れるかどうかはわからない、と言っていたが。唇の動きだけでレイはそう続けた。
「あと少ししたら、カナードさんとムウが迎えに来るとも言っていたな」
他のメンバーは今、動きがとれないのだろう。
「……信用されてないみたいで悔しいけど、仕方がないのか」
自分達がどれだけ未熟なのか。今回のことでわかったような気がする。
でも、いつまでもこのままじゃない。絶対に認めさせてやる、とシンは心の中で呟く。
「あの人達のレベルまで追いつかないとだめだと言うことだろうが」
やはり悔しいな、とレイも呟いた。
「それに関しては、これからか」
「……努力するしかないか」
顔を見合わせると頷きあう。
「ともかく、キラを起こすか?」
決意を確認したところでこう問いかけた。
「来てから判断していいと思うぞ。ムウなら、キラさんを抱えても大丈夫だろうし」
それはそれでおもしろくないが、と言外にレイは付け加える。
「キラが一番だからな」
仕方がない、とシンは言う。
「起こさないですむなら、それでいいだろうし」
キラが眠っている間に全てが終わってくれればいい。そんなことまで考える。
「確かに。起きているとあれこれうるさいだろうしな」
周りが、とレイも言いきった。
「寝ていてもうるさいというか、煩わしいのにな」
こう言いながら、彼はドアの方へと視線を向ける。その瞬間、いくつかの気配が遠ざかっていくのがわかった。
「女性なら、ザフトにもいるだろうに」
何をしようとしていたのか想像できてあきれたくなる。
「まぁ、キラほどかわいい女の子はいないだろうけど」
シンはきっぱりと言い切った。
「確かに」
外見はともかく、とレイも同意をしてくれる。
「だから、守りたいんだけどな」
シンは素直に本音を吐き出す。もちろん、キラが聞いていないとわかっているからだ。
「キラが他の誰かを選んでも、俺はキラを守る」
もちろん、そんなことをさせないように努力するが、と彼は付け加える。
「がんばれ。協力はしてやろう」
レイはそう言って笑う。
「もっとも、その前にギナ様にしごかれそうだがな、お前は」
それはそれで生死の境をさまよいそうな気がする。しかし、確実に実力を身につけることができるだろう。
「頼む」
シンがこういうのを待っていたかのようにドアがノックされる。
「お迎えのようだな」
この言葉とともにレイは体の向きを変えた。