愛しき花
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「最後の悪あがきに出たか」
ギナがそう言って笑う。
「さて……お手並みを拝見と行くかの」
彼はそう言いながら座り直した。
「ギナ様?」
そんな彼の行動に、カガリは驚いたような視線を向ける。
「今は動かぬ。あれらに花を持たせてやらねばならぬからの」
自分達の国での事件だ。他国の人間が口を出すことではないだろう。ギナはそう言ってきた。
「まぁ、我が身に被害が及ぶようであれば遠慮はせんがな」
それは当然のことだろう? と彼は笑う。
「確かに、自衛は当然の権利ですが……」
それでいいのだろうか、とカガリは心の中で呟く。
「それに、追っ付け、カナードが駆けつけてこよう」
ギナがさらに重ねた言葉に、カガリは思わず彼をにらみつけてしまう。
「キラと一緒でしょう?」
「もちろん、安全な場所に預けてからに決まっておろう」
そのあたりのことはパトリック達がすでに手を打っているはずだ。ギナは平然とそう言い返してくる。
「こちらもそうであったはずなのだがの」
襲撃者の執念の方が勝ったか。どちらなのだろうか。
「まぁ、よい。今しばらく様子見よ」
これが最後の悪あがきだろう。彼はそう言いきった。
「だといいのですが」
連中はしぶといから、とカガリは心の中だけで呟く。
せめて、自分達が生きている間だけでもおとなしくしていてくれればいいのだが。甘い汁を吸っていた人間がいつまで我慢できるものだろうか。
「まぁ。アスランだけではなくおじさまもがんばってくれているのなら、大丈夫かな」
そう言いながらも、カガリは銃の手入れを始めていた。
最高評議会ビルもテロの標的になっていた。
「これほどのブルーコスモスがプラントに潜んでいたとはな」
パトリックはそう言って顔をしかめる。
「確かに。いないなどとは考えていなかったがな」
それにシーゲルも頷いて見せた。
「オーブからの客人はどうしている?」
そのまま、彼はこう問いかけてくる。
「サハクの片割れとアスハの姫は大使館にいる。あちらにはすでにザフトの兵士が向かっているから、心配はいらないだろう」
問題はキラの方だ。
一応見かけたら保護するように指示は出してある。ラウも根回しをしているはずだから、大丈夫だとは思いたいが。
そんなことを考えていたときだ。秘書官の一人がさりげなく近づいてくる。
「オーブのお嬢さんが避難して来たそうです。そのまま、戦闘が終わるまで保護しておくそうです」
終わり次第、こちらに案内するように指示を出した。彼はそう続けた。
「そうか」
その報告に、パトリックは胸をなで下ろす。
親友の忘れ形見だ。何としても守りたい存在である。
それに、彼女が今回の停戦のために重要な役目をしてくれていたことも事実。失うわけにはいかない。
「そちらは任せる。一刻も早く、テロリストを排除するように」
しかし、自分は公人だ。私情だけで動くわけにはいかない。
無事でいてくれればそれでいい。
自分にそう言い聞かせると次の指示を出すために体の向きを変える。そんなパトリックの方を、シーゲルが苦笑とともに軽く叩いた。