愛しき花
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紙やペン、それにインクなどを買って店を出たときだ。さほど遠くない場所から爆発音が響いてくる。
「キラ!」
とっさにシンはキラの体を自分の方に引き寄せた。
「とりあえず、安全な場所へと移動した方がいいでしょうね」
レイがキラを挟むように反対側へ移動しながらこう言ってくる。
「そうだな」
カナードがそう言いながらも周囲を見回していた。
「大使館はまずそうだ。一番いいのは軍施設か?」
彼はそう付け加える。
「何故、大使館ではまずいのですか?」
レイがすぐにそう問いかけた。
「どうやら、連中の目標の一つは大使館のようだからな」
方角的に、とカナードが言い返して来る。
「そこにキラを連れて行く方が危険だ」
最悪、盾に取られるかもしれない。彼はそう続ける。
「ザフトの施設であれば、ラウかアスランあたりの名前でキラを保護してもらえるだろう。キラの安全さえ確保できれば、俺もあちらのフォローに回れる」
必要ないかもしれないが、と言うのはギナがいるからだろう。
「……ごめんなさい。僕が足手まといだから」
キラは買った品物が入っている袋を抱きしめる。
「馬鹿なことを言っているんじゃない」
あきれたようにカナードはため息をつく。
「お前に戦い方を教えなかったのは、俺たちのわがままだ」
だから足手まといだなどと言うな。彼はそう続ける。
「それに、お前に傷ひとつつけてみろ。ギナ様だけではなくミナ様にもお仕置きされるぞ、俺は」
そんな命知らずなまねができる人間がいるか。彼は真顔でそう付け加えた。
「確かに……俺もそんな状況、考えたくない」
シンも頷いてみせる。
「でもさ。俺たちがキラと移動して、カナードさんはあちらに行くっていうのはなしなのか?」
そのまま彼はカナードにこう問いかけた。
「確かに。ラウを呼び出すなら俺でも大丈夫ですよ?」
シンの言葉に同意するようにレイも続ける。
「俺が安心できないだけだ」
これも自分のわがままだ、とカナードは言い返す。
「お前のためじゃない。あくまでも自分のためだ」
彼はさらにこう続けた。あくまでもそれは口実ではないか、と思わずにいられない。
しかし、とキラは唇をかむ。ここでぐずぐずしていれば、それだけカガリ達が不利になるのではないか。
「ここから一番近いザフトの施設って、どこ?」
だから、とキラは口を開く。
「こちらです」
レイが仕方がないというように歩き出す。
「とりあえず、そちらに着いたらお前たち二人はキラから離れるな」
連絡が取れたならば、ラウの指示に従え。歩きながら、カナードはそう言う。
「今のお前たちは二人セットでようやく一人前だ。悔しければ、早々に一人でも認められるようになるんだな」
カナードが二人に向かってそう声をかける。
「……わかっています」
シンがそう言い返す。斜め前を歩いているので、彼がどのような表情をしているのか、キラからは見えない。しかし、口調が悔しそうだ。
こういうところは彼らが《男性》だから、なのだろうか。
キラは歩きながらもそんなことを考えていた。