愛しき花
80
久々の外出に、少しだけ心が弾んだ。それ以上に『本当にいいのだろうか』という気持ちがキラの心を占めている。
「どうかしましたか、キラさん」
それに気がついたのだろう。レイが問いかけてくる。
「みんなが忙しくしているのに、僕だけ遊びに来ていいのかなって思っただけ」
カガリなんてろくに眠ってもいないようなのに、と付け加えた。
「だって、キラはその前にものすごいことやっただろ」
即座にシンがそう言ってくる。
「今、停戦に向けて動いているのだって、あのとき、キラががんばったからじゃん」
だから、このくらいはかまわないのではないか。シンはさらに言葉を重ねた。
「そうですよ、キラさん。ラウだけではなくてギナ様も許可を出されたのですから、堂々としていてください」
レイもそう言ってくる。
「でも……」
素直に納得していいのだろうか。キラがそう考えたときだ。
「だめだったら、俺が止めている。だから、気にするな」
カナードの声が耳に届く。
「むしろ、お前を連れ出せとギナ様に言われている。プラントの様子を見てきて欲しいそうだ」
一般人の視点で、と言われれば何を求められているのかわかった。
「……後でレポートを出さないとだめなのね」
問題はこちらではないか。キラはそう言ってため息をつく。
「食べたものと店の名、味の評価で十分だと思うぞ」
手書きなら尚よし、とカナードは教えてくれる。
「……あの方って、そう言う趣味?」
シンがレイに問いかけていた。
「と言うより、キラさんの《手書き》と言うのが重要なんだと思うぞ。メールが多いからな」
「そう言われてみればそうか。キラの手書きの手紙なんて、俺も一度しかもらったことがない」
シンがそう呟いているのが聞こえる。
そうだったかな、とキラが首をかしげたときだ。
「もらったのか?」
レイが微妙に低い声で問いかけている。
「別れてこっちに来るときにな」
確かに、そのときは渡した。他にもあれこれと手書きのカードをつけておいた記憶があるのだけれど、と思う。
「なら仕方がないのか」
少しうらやましいけど、とレイは続ける。
「僕の字はきれいじゃないけど?」
何でそんなにほしがるのか、とキラは呟く。
「これがカガリやアスランならわかるけど」
あの二人は自分からの手紙やプレゼントを競い合っているから、と続ける。
「何でって、キラからだからだよ」
シンは真顔でこう言い返してきた。
「そうですね。滅多にもらえないから欲しいだけです」
レアもの扱いなのか。
そういうことならば、とキラは考え方を変える。
「途中で文房具を売っているお店によっていい? 簡単なカードぐらいなら暇つぶしに作れると思うし」
「カリダさんが作っていたあれか?」
「そう。母さんみたいにきれいに作れないけどね」
母が作ったカードは売り物にしてもいいくらいきれいだった。しかし、自分はそこまでこったものは作れない。
「あれなら、俺も欲しいな」
カナードがそう言って笑う。
「もちろん、俺も!」
「俺も欲しいです」
シンとレイも頷いてみせる。
「文房具を売っている店なら、隣のブロックにあったはずだよ」
シンがさらにこう言う。
「なら、そっちを先に回るか」
カナードのこの一言で、キラ達は進路を変えた。