愛しき花
79
停戦にかかわるスケジュールにとりあえずの同意を見た。
「とりあえず、一段落ついたか?」
その事実にムウはこう呟く。
「これからが本番かもしれないがな」
ラウが即座にこう言い返してくる。
「おそらく、停戦調停を邪魔しようとしてくるだろうからな」
少しでも時間を稼げれば何とかなるのではないか。連中はまだその考えを捨てていないはずだ。
「馬鹿の捕縛もできていないようだし」
あれが問題なんだよな、とムウは頭をかく。
「よっぽどの実力者がフォローしているのか。それとも、単に運がいいだけか。どっちだろうな」
後者のような気もするが、と心の中だけで付け加える。
「思考が斜め上なんだろう」
ラウはあっさりと切って捨てた。相変わらず身内以外はどうでもいいらしい。もっとも、相手があれであれば、自分も同じような反応をするだろうとムウも自覚している。
「問題はキラとカガリだが……」
「カガリはアスランがきっちりとフォローするだろうし、キラにはカナードがつくそうだ」
先ほど、ギナから連絡があった。そう続ける。
「なら、あの子は大丈夫だな」
カナードを出し抜こうとすれば、それこそMSが必要なのではないか。
しかし、そんな大規模な作戦を行えば、ラウの耳に入らないはずがない。耳に入れば即座に対策を取るに決まっているのだ。
「だが、それこそ斜め上だからな」
連中の考えは、とムウは付け加える。
「確かに。それが一番問題か」
ラウもうなずき返す。
「とりあえず、要人の周囲には信用できるものをは位置したからね。当面は大丈夫だろう」
それこそ、プラントごと破壊しようとしなければ、と彼は続けた。
「やなこと言うね、お前」
顔をしかめながらムウは言葉を口にする。
「連中にその戦力はないだろう?」
「戦力はな。だが、人間、その気になれば何でもできるもんだよ」
自分の命すら省みなければ、と続けた。
「それも含めて許すつもりはない」
ラウはきっぱりと口にする。
「まぁ、がんばれ」
苦笑とともにムウはそう言った。
ラクスはスケジュールを確認しながらも小さなため息をつく。
「つまらないですわ」
そして、小声でこう呟いた。
「ラクス?」
何かを言ったか、とイザークが問いかけてくる。
「何でもありませんわ。スケジュールを確認していただけです」
無意識のうちに声を出していただろうか、とラクスは首をかしげて見せた。
「……ならばいいが」
とらえず、と彼は言い返して来る。もちろん、納得はしていないようだ。
「ともかく、一人で行動しないように。あなたに何かあった場合、プラント内が混乱しかねない」
いいですね、と彼は念を押してくる。
「わかっているつもりです」
不本意だが、と心の中だけで呟く。
「ただ、キラ様とまた話をしたいと思っただけです」
その時間がとれないのが残念だと思っているだけだ。代わりにそう告げる。
「あいつは民間人扱いですからね」
それでも、オーブ側はカガリと負けないくらいの警備体制を敷いているらしい。イザークはそう言った。
「停戦条約さえ結んだ後ならば、いくらでも時間がとれるだろう」
それは正論かもしれない。
「だといいですけど」
しかし、それにすぐに納得できない自分がいることにも、ラクスは気づいていた。