愛しき花
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そろそろプラントでの話し合いも終わるか。ギナがそう考えていたときだ。
「……セイランの馬鹿が逃げ出したそうです」
カナードが久々に顔を見せたかと思うと同時にこう言ってくる。
「誰の手引きだ?」
ギナはそう問いかけた。カナードがそれについて調べていないとは考えていない。
「次期盟主、とか言っていましたよ」
こちらにいるのはさっさと切り捨てたらしい。カナードはそう続ける。
「ミナ様がご自分で動くそうです。と言うより、あれはわざと見逃しましたね」
一網打尽にするために、と言うカナードの推測は正しいだろう。
「ただ、一点不安なのは、こちらでも万が一の可能性がある、と言うことでしょうね」
オーブ側のブルーコスモス関係者は全て洗い出せている。だが、プラントではどうだろうか。
「とりあえず、シンとレイがついているから大丈夫だと思うがな」
あれらもそれなりに使えるようになってきている。しかし、カナードはまだ不安のようだ。
「心配ならば、お主もそばにいればよかろう」
カナードは当面、こちらで待機だ。その間、キラの護衛をさせても悪いことはあるまい。ギナはそう判断をする。
実際、自分達の泣き所は彼女なのだ。
大切なものを守るためにはそれなりの手配をして悪いことはあるまい。
「許可いただけるのでしたら」
「かまわん。カガリの方はアスランとムウに任せておけばいいだろうしの」
自分も彼女と行動を共にすることが多い。そう続ける。
「では、そのように」
カナードはそう言って唇に笑みを浮かべた。おそらく、自分から言質を取りたかったのだろう。
「あまり構い過ぎて、あの子に嫌われぬようにの」
からかうようにそう告げる。
「わかっています。俺が一緒なら、あいつが行きたがっていたケーキ屋に足を運んでもいいでしょうし」
しかし、まさかの逆襲をされてしまった。
「……そうか」
自分も許されるならばそちらに参加したい。だが、さすがにこちらも終わらせてしまわないとそんな時間はとれないだろう。
いや、ミナに奪われるといった方が正しいのか。
「まぁ、あの子が笑っているのが一番か」
自分にそう言い聞かせる。
「オーブに戻られたら、好きなだけ甘やかせばいいでしょう」
カナードもそう言ってきた。
「当然であろう。とりあえず、しばらくは手元に置いておく予定だ」
キラが喜ぶものそろえてやろう。そう心の中で付け加える。
「ついでに、あれらもしごくか」
ラウに言って同行させればいい。
自分も暇つぶしができるから一石二鳥だろう。
ただ、と彼は続けた。
「もっとも、ザラ達が素直に出国させてくれるとは限らんがな」
彼らも忙しくてキラを構えていない。全ての後始末が終わり次第かまい倒そうと考えているはずだ。
いっそ、強引に出国をするか。
だが、そうすればカガリの立場が悪くなるかもしれない。
「一月ぐらいは我慢されたらいかがですか?」
カナードが笑いながらそう言ってくる。
「そのくらい時間をおけば後始末も完璧になるのでは?」
さらに彼はそう指摘してきた。それは正論かもしれない。しかし、とギナはため息をつく。
「今回、我はかなり我慢しておると思うのだが?」
そしてこう言う。しかし、それにカナードは同意をしてくれない。
「……キラの顔でも見てこようかの」
そうすれば、少しは気持ちが浮上するだろう。それからでなければ何もする気になれない。ギナは本気でそう考えていた。