愛しき花

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「そんなきれいな温室だったのか?」
 翌朝、何故か朝食の席にアスランの姿もあった。そのせいだろうか。キラの説明に熱がこもっていたのは。
「うん」
 ものすごくきれいだった、と彼女は笑顔で告げる。
「よかったな、それは」
 それにアスランだけではなく他の者達も微笑んで見せた。
「そういえば、桜の季節って終わったんだっけ?」
 キラガキにしていたけど、と言いながらシンはカガリに話を振る。
「……今年はどうだろうな。そろそろだと思うが」
 彼女はこう言って首をかしげた。
「でも、本土でなくてもかまわないなら、いつでも見られるぞ」
 不意にギナが口を挟んでくる。
「ギナ様?」
「この前、アメノミハシラに実験のために桜の回廊を作ってみたからの。一年中、どこかの桜が咲いておる。だから、好きなときに花見ができるぞ」
 しかも、桜の他に四季の花がそれぞれ植えられているとか。だから、いつでも好きな季節の花が観賞できるらしい。
「……それって、きれいだろうけど、何か違うような気もする」
 キラがそう言って首をかしげる。
「桜って、春に咲くものだし」
 この言葉に、ギナが少しだけショックを受けたような表情を作っていた。
「そう言うな、キラ」
 苦笑とともにアスランが口を開く。
「昔から一年中桜を見たいと考えていた人間は多いらしいぞ。実際、二期咲きの桜というのはあったそうだし」
 母の受け売りだが、と彼は続ける。
「おばさまの?」
「あぁ。だから、うちには研究途中の桜が何本かあるな」
 とりあえず、五月と十月には確実に咲く。そう言ってアスランは微笑む。
「私達とお前の誕生日の時期だな」
 ぼそっとカガリが呟く。
「言われてみれば、そうだね」
 それにキラも頷いている。
「……母上、わざとですね、それは」
 アスランが最後にそう締めくくった。
「おばさまならやるだろうな」
 カガリもそう言って頷く。
「そういえばカリダ殿の親友でいらしたな、レノア殿は。お亡くなりになっていたとは知らなかったが」
 ギナがそう締めくくった。
「そうだ。おばさまのお墓参りに行かないと」
 キラが慌てたようにそう言う。
「それに関しては、父上が同行したいと言っていたからな。今しばらく待ってくれないか?」
 ただでさえ、キラを自宅に引き取れなくて落ち込んでいる。だから、そのくらいのわがままにはつきあってやって欲しい。彼はそう続けた。
「そうだな。そのくらいはかまわぬであろ」
 ギナもそう言って頷いている。彼らが幼なじみだとは知っていても、何かおもしろくない。レイも同じ気持ちだったのか。少しだけ不満げな表情を作っていた。
「パトリックには話しておく。それらも連れて行くがよい」
 その方がいろいろと都合がいいだろう。ギナはそう言って笑う。
「……ギナ様?」
 意味がわからないと言うようにキラが聞き返している。
「わからなければそのままでよい」
 ギナがそう言って微笑む。
「一生わからぬままでもよいぞ」
 さらに彼はそう付け加えた。
「……カガリ……」
「私に聞くな、私に!」
 キラの問いかけにカガリは即座にこう言い返す。
「わからなくていいって言われているんだ。後で考えろ」
 でも、考えすぎるな。そう言う彼女の言葉は正しいと思う。
「とりあえず、アスランとカガリは別行動、ってことにしておけば?」
 シンが助け船を出そうとそう言った。
「あぁ、そういうこと」
 それにキラは反応してくれる。
「たぶん、キラが考えているのとは微妙に違うと思うぞ」
 アスランのこのセリフが微妙に虚しく響いていた。

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最遊釈厄伝