愛しき花

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 今回の戦闘で一番の収穫は、ブルーコスモスの盟主をとらえたことだろう。
 後は、戦後処理だ。
「それはそうなんだが……何で、こんなに忙しいんだ?」
 カガリはそう呟く。
「私は、キラのそばにいたいのに」
 きっと、心細さを感じているはずだ。それなのに、と彼女は続けた。
「あきらめろ」
 アスランが冷静な口調でそう言ってくる。
「シンもレイもいるから大丈夫だろう。それに、お前は夜になれば会えるだろうが」
 自分は顔も見られないんだぞ、と彼は続けた。
「来ればいいだろう?」
 何を言っているのか、と思いながらカガリは言葉を口にする。
「夜遅く、女性の部屋にか?」
 アスランは真顔でそう言った。
「今更だろう」
 しかし、カガリにはどうして彼がそんなことを言うのかが理解できない。
「昔から真夜中だろうと明け方だろうと関係なく、キラの部屋に侵入していただろうが、お前は」
 キラの方もあきらめているようだし、と彼女は首をかしげる。
「……子供の頃だから許されたことだろう、それは」
 今の自分がそんなことをすれば何を言われるか。アスランはそう呟くとため息をつく。
「何よりも、俺はギナ様に殺されたくない」
 彼の言葉に、カガリはさらに首をかしげる。
「ギナ様なら怒らないと思うぞ。食事ぐらいならな」
 もっとも、問題はそれに間に合うかどうか、ではないか。
「……難しいことぐらい、お前もわかっているだろう?」
 ため息とともにアスランはそう言ってくる。
「なら、がんばって早起きするんだな。朝食なら打ち合わせの名目も使えるんじゃないか?」
 こう言ったのは、そろそろアスランの機嫌が最悪になりかねないと思ったからだ。
「そうだな。そのくらいなら可能か」
 アスランもそう言って頷く。
「なら、早速明日の朝はお邪魔しよう」
 内密で、と彼は口の中だけで続けた。
「……内密?」
「でなければ、父上もついてくる。そうなると、食事どころではなくなりそうだからな」
 ギナがいるから、と彼は続けた。
「キラもいるけどな」
 ギナは彼女の前であまりそう言う話をしない。だから、大丈夫ではないか。
「おじさまも、キラの前ではあまり生臭い話をしないだろう?」
 彼女を政治から遠ざけようとしているから、と続けた。
「非常時でなければな」
 ため息とともにアスランは反論をしてくる。
「もっとも、キラの顔を見て終わる可能性もあるか」
 それはそれで居心地が悪いだろうな。カガリはそう思う。
「キラの食欲がなくならなければいいが」
 アスランはそんなセリフを口にする。
「やめてくれ」
 ただでさえ、微妙に食事の量が減ってきているのに、とカガリはため息をつく。
「だから、お前を誘ったのに、逆効果になっては意味がないだろう」
 アスランの前でならばとりあえずがんばろうとしてくれるのではないか。そう考えたのに、とカガリは言う。
「そういうことなら、意地でも父上を出し抜くしないかないな」
 彼はそう言って笑った。

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最遊釈厄伝