愛しき花
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内密に、だが、できる限りの戦力を振り分けたはずだった。
プラントの住人がいるのは人工の大地。
それを破壊すれば、連中は地球に戻ってこざるを得ない。
その時は、自分達の慈悲を請わなければならなくなる。
もちろん、オーブという逃げ場がないわけではない。だが、あの国でもプラントの人間を全て保護することは不可能だ。
それに、オーブもいずれは自分達の一員となる。
そうなれば、どのようなことをしてももみ消すことができるはずだ。
そう考えての、今回の作戦だった。
「なのに、何故、あいつらが今回のことを知っているのですか……」
目の前にはザフトの艦隊がこちらを迎え撃とうと待ち構えている。
いや、それだけならば撃破すればいい。そのためにあれを多めに用意してきたのだ。
しかし、だ。何故かオーブの艦艇もその場に確認できる。しかも、識別信号から判断してあれはサハクの船だ。
これがセイランであれば後でいくらでも言いくるめられる。
アスハでも手段がないわけではない。
しかし、サハクでは無理だ。
オーブの中で唯一、地球上に領地を持っていない一族。だが、その影響力はアスハに次ぐ。
そんなサハクとアスハがさらに結びついたらどうなるか。
サハクの双子の一人は男だ。そして、アスハにはカガリとキラがいる。
カガリは早々にザラの息子と婚約を決めた。だが、それも相手がいなくなればすぐに別の相手をあてがうことができる。
しかし、キラは別だ。
内々の噂ではサハクの片割れとの話が進んでいるらしい。
だからこそ、セイランに任せたのに、あれらは失敗した。逆に、周囲に警戒心を抱かせることになったのだ。
しかし、どんなに馬鹿で忌々しい存在でもあれはオーブという国に介入するために重要なくさびだった。
それに、と考えても、今更どうすることもできない。
「……いっそ、あれごと消し去りますか?」
そう結論を出す。
「それが一番手っ取り早いですね」
この兵器を使ったことを知られるのはまずい。だから、と彼は笑う。全てを闇に葬ってしまえばいい。証拠さえなければいくらでも言い逃れができるはずだ。
「遠慮せずに攻撃を。何も残さず破壊してしまいなさい」
目の前のあれらが消え去れば、残った者達は抵抗をあきらめるだろう。だから、と彼は命じた。
しかし、その命令は実行されることはなかった。
「武器管制システム、沈黙!」
「発進した者達も、動きがとれません」
耳に飛び込んでくるのは信じられない報告だけだ。
「……何が、起きたのです?」
無意識のうちに問いかけの言葉を口にする。
しかし、それに対する答えは誰からも返ってこない。
いや、誰も答えを知らないのだろう。
「ザフトから、降伏勧告が」
いったいどこまでこちらを馬鹿にすれば気が済むのか。
「人形のくせに」
本来の主を忘れているくせに、何を言っているのだろう。むしろ、向こうの方が頭を下げて自分達の行為を謝罪すべきではないか。
「まだ、我々には手段が残っています」
不本意だが、と彼は続ける。
「攻撃システムはダウンしても航行システムは生きているのでしょう? 自動航行でも何でも使って、体当たりをさせなさい」
何なら、パイロットごとと言いたい。しかし、それを言っては指揮が下がることもわかっていたから言葉を飲み込む。
「まだ、我々は負けていません。そうでしょう?」
しかし、それに対する言葉は返ってこない。彼らは皆、これ以上何もできないと考えているのだろうか。
「何をしているのですか!」
そう叫ぶ彼の言葉に、誰も従おうとしない。それが答えだった。