愛しき花
73
キラがウィルスを完成させたのは翌朝のことだった。
「……ともかく、眠れよ」
シンがそう言いながらキラをベッドに放り込む。
「でも、まだ動作確認してない」
キラが即座にそう言い返す。
「大丈夫。それは俺たちでやっておくから」
だから、キラは寝ろ。そう言うと同時に彼は強引に彼女に毛布で包んだ。
「そうですよ、キラさん」
レイもそう言うと、そっと彼女の肩を叩く。
「今まで、伊達や酔狂でキラさんのそばにいたわけではありません。そのくらいのフォローはできます」
カナードもいるし、と付け加えればキラの体から力が抜ける。
「カナードさんなら、大丈夫かな」
キラがそう言う理由もわかっていた。だが、少しおもしろくない。
しかし、仕方がないと言うこともわかっていた。
キラが最初にハッキングの技術を教えてもらったのは彼だと聞いてる。そして、本当に彼女が辛いときに彼女を守ったのも彼だ。
「……レイもお願いね」
しかし、この一言であっさりと気持ちが浮上する自分も現金だと思う。
「俺は?」
シンがとっさに問いかけている。
「シンは……枕?」
「はぁ?」
何を言っているんだ、とシンが呟く。しかし、キラは限界を超えていたのだろう。完全に意識が落ちている。
「今の一言は何なんだ?」
呆然とした表情のまま、シンはレイを見つめてきた。
「そばにいて欲しいってことじゃないか?」
一人でいるのがいやなのかもしれない。レイはそう言って笑う。
「俺じゃないのは、きっと、作業が待っているからだな」
シンはそうそうに戦力外宣告されたと言うことだ。
「……喜んでいいのか悲しむべきなのか」
彼はため息とともにこう呟く。
「仕方がないな。お前よりも俺の方がこちらに関しては上だ」
苦笑とともにレイはそう言い返す。
「じゃなくてさ」
しかし、シンは小さく首を横に振る。
「この状況って、結局、俺がキラに《男》として見てもらってないってことだろう?」
いくら疲れているにしても、ここまで無防備でいいのか。彼はそう続けた。
「仕方がないな。キラだから」
レイはそう言って苦笑を深める。
「俺でも、きっと、同じ反応をされたぞ。ラウでもそうだろうな」
カナードはわからないが、例外があるとすればムウだろう。もっとも、それは彼の悪行のせいだ。それを知っているから、他の者達もこのような場に彼を派遣するようなことはない。
「俺たちはキラさんの《家族》だから、それでもいいがな」
シンには辛いだろう。
「あきらめろ」
かわいそうだが、と心の中で付け加える。
「いろいろと落ち着いたら、状況は変わるさ」
キラの心情も含めて、と続けた。
「そうあって欲しいと思うよ」
シンはそう言ってため息をつく。
「その前に、カガリさんに殺されなきゃいいけど」
この光景を見られたら、絶対に命の危機が訪れるに決まっている。シンはそう言う。
「フォローだけはしておいてやるよ」
さすがに自分のせいでシンが死んでしまったとなればキラが悲しむだろう。だから、とレイは呟く。
「……頼む」
半ば涙目になりながらそう言ってくるシンに、少しだけ同情を抱いた。しかし、これだけは忠告しておくべきだろう。
「ただし、お前が不埒なことをした場合には責任は取らない」
「わかっている」
レイの言葉に、シンは悲壮な表情とともに頷いて見せた。