愛しき花

BACK | NEXT | TOP

  71  



「キラとは会えませんの?」
 ラクスが少し残念そうな口調でそう問いかけてきた。
「作業中だからな。邪魔したくない」
 カガリはすぐにそう言い返す。
 もっとも、キラのことだ。そばで何をしていようと集中していれば気づかないだろうが。
 そんな彼女に食事を取らせるのに、シンとレイが苦労していることも知っている。
 それにしても、とカガリは心の中でため息をつく。ムウはずいぶんとあっさりと白旗を揚げたものだ。もう少し粘ってもいいのではないか、と思う。
「まぁ、完成すればいいだけだがな」
 そうすれば、キラをいじっても大丈夫だろう。カガリはそう心の中で呟く。
 もっとも、とその頃には自分達の方が忙しくなっている可能性は否定できないが。
「残念ですわ。お茶をご一緒させていただきたかったのですが」
 ラクスはそう言ってため息をつく。
「今のキラは声をかけても聞こえてないから無理だぞ」
 キラの集中力は並じゃない、と苦笑とともに付け加える。
「そのお話は聞いていましたが」
 本当だとは思っていなかった、とラクスは呟く。
「実際に見ないとな……隣でアスランとイザークが口げんかをしていても気づかなかったほどだ」
 あの騒ぎに全く目を向けないなんてどれだけの集中力なのか。キラの集中力のすごさを知っている者達も、改めて驚いたほどだ。
「あれにですか?」
 やはりラクスも二人の口げんかの場面に遭遇したことがあるのか。驚きを隠せないような表情でそう言った。
「あぁ。集中しているときのあいつの意識を現実に戻すのは私でも難しい。だから、今はそうっとしておけ」
 終わったら一転して甘えモードになるから、と笑う。
「わかりました」
 ですが、とラクスは続ける。
「何故、あの方々は許されるのでしょうか」
 そう言いながら彼女が視線を向けた先にはシンの姿があった。
「あいつらはどんなときでもキラを現実に連れ戻せるからな。食事ぐらいはきちんと取らせたい」
 後は水分か、とカガリは付け加える。
「もっとも、かなり苦労しているが」
 ため息とともに告げれば、ラクスは「そうなのですか」と呟く。
「そういうことだから、イザークを引き取ってくれ」
 アスランと二人で室内の気温を下げていてくれる、とカガリは言った。
「……キラはともかく、私達はあれにつきあいたくない」
 無視できればいいのだが無理だ。自分達はまだまだ修行が足りないのかもしれない。だからと言って楽しめるようになってはおしまいではないか。
「わかりましたわ」
 やるべきことはたくさんあるでしょうに、とラクスはそう呟く。
「イザークはわたくしの方で引き取っていきます」
 口げんかならばまだいいが、実力行使になったら大変だ。ラクスはそう言ってため息をつく。
「少しは自制を覚えてくださればいいのに」
 愁いを含んだ表情のまま、彼女はそう付け加えた。
「それはこちらのセリフだ」
 後頭部にアスランの声がぶつけられる。
「……それに関しては同意だ」
 さら庭木の方からイザークの声が響いてきた。
「あら。まるでわたくしが自制していないようではありませんか」
 即座にラクスが言い返す。
「わたくしはちゃんとTPOをわきまえていますわ」
 違いますか? と彼女はイザークをにらみつけた。
「自制されている方は危険な場所へ自分から行こうとはされませんよ」
 静かな声でイザークは言い返す。
「わたくしの仕事がいけなかったと?」
「誰もそうは言っていません」
「おっしゃっているではありませんか」
 今の一言はまずいだろう、とカガリは思う。そのまま、非難するようにアスランへと視線を向ける。
「お前が余計な事を言うから」
 そのままこう言った。
「……すまん。俺もこうなるとは思わなかった」
 何かあったのだろうか、と彼は続ける。その間にもラクスとイザークの口論は激しくなっていく。
「ともかく、止めないと」
 カガリがこういったときだ。
「うるさい! キラの邪魔になるだろうが!! けんかするなら他の場所でやれ」
 シンの声が周囲に響き渡った。

BACK | NEXT | TOP


最遊釈厄伝