愛しき花

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「ムウさん!」
 いつ用意したのか。オーブの軍服に身を包んだ彼が姿を見せた。
「大きくなったな」
 言葉とともに彼はキラの頭をなでてくれる。それは昔と変わらない仕草だ。
「納得したか?」
 そんな彼に向かってラウがこう問いかけている。
「不本意だがな。まぁ、お前がキラを不当に扱うはずがないからな」
 ムウは即座にこう言い返す。
「むしろ、さっさとプラントに送り届けたかったんだろうが……」
 いろいろと予定外のことが重なったからな、と彼は続ける。
「それに関しては仕方がないです。イレギュラーなのは僕の方ですし」
 キラはムウを見上げながらそう告げた。
「お前さんはもう少しわがままでもいいと思うぞ。カガリのようになっちゃ終わりだがな」
「どういう意味だ!」
 予想通りと言うべきか。カガリが即座に突っ込みを入れてきた。
「キサカが嘆いていたぞ。気を抜くとどこに消えるかわからないってな」
 せめて行く先を行ってから出かけてくれとぼやいていたな。ムウはそう続ける。
「……あいつが掴まらないのが悪い」
 視線をそらすと同時にカガリはそう言った。
「それはずいぶんな理由だね」
 自分でもそう思うのだ。年長者二人がそう思わないはずがない。
「君はどう思う? アスラン・ザラ」
 笑いをにじませながらラウがそばにいたアスランに問いかけた。それに視線を移動させれば、必死に頭痛を抑えている彼が見える。
「ウズミ様がカガリに甘いでしょうね」
 昔からそうですとアスランはため息をつく。
「まぁ、代わりにサハクのお二人には怒られていたようですけど」
 そういえば、と彼は続ける。
「ギナ様はいつこちらに?」
 この言葉を聞いた瞬間、カガリの肩が小さく震えた。
「私がどうかしたのか?」
 さらに追い打ちをかけるかのようにギナが姿を見せる。ひょっとして、このためにドアを開けたままにしておいたのだろうか。
「ギナ様、お久しぶりです」
 そういえば彼は微笑んでくれる。
「元気そうじゃの。しかし、相変わらずカガリに振り回されておるようだな」
「……いつものことです」
 きつい皮肉だな、とキラは思う。だが、それ以上に彼の隣でぐったりとしているシンとレイの方が気になった。
「ところで、ギナ様。二人に何か、しました?」
 おそるおそるそう問いかける。
「安心しろ。お前の身柄を守れるかどうか、確認しただけよ」
 二人セットで及第点かな、とギナは笑う。
「昔、それにもしただろう?」
 さらにアスランをあごで指しながら彼はそう言った。
「ご苦労だったな、坊主ども」
「こういう方だからね。あきらめなさい」
 及第点をもらえただけでも幸いだよ、とラウは笑う。そうでなければ、及第点をとれるまでしっかりとしごかれただろう。そう続ける彼にムウも頷いてみせる。それを見てシンとレイが表情をこわばらせていた。
「カガリ」
 それを見て満足したのだろうか。ギナは視線を彼女へと向ける。
「はいぃ!」
 彼女の声が裏返っている理由は聞かない方がいいのだろうか。
「お前もアスハの人間だ。きっちりと義務を果たしてもらうから、そのつもりでの」
 その言葉にカガリは表情をこわばらせる。
「はい」
 それでも彼女はしっかりと頷いて見せた。
「よい子じゃ。他にもあれこれあるからの。お主らがプラントに戻るのに同乗させてもらおう。ムウは悪いが、その家出常習娘のお守りを頼むとしよう」
 カナードには別に動いてもらう必要がある。彼はそう言って笑う。
「仕方がねぇな。今は、お前の方が上司だ」
 こき使われそうで怖いが、とムウは付け加える。
「暇つぶしに、お主らには稽古につきあってもらうとしようの」
 ギナにまた矛先を向けられたシン達がどのような表情を作っていたのか。あえて言う必要はないだろう。

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最遊釈厄伝