愛しき花

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 ウズミの執務室のソファーを占領して、ミナは資料に目を通していた。
「これだけあればよかろう」
 やがて顔を上げるとウズミにこう問いかける。
「他の二家にも根回しは終わっておるのだろう?」
 後は行動に移すだけではないか。彼女はさらに言葉を重ねた。
「動きたいが、ウナトがまだ帰国していない」
 それにウズミはこう言い返してくる。
「どこに行っておるのだ、あれは」
 自分は聞いていないが、と続けた。
「表向きはセイラン関連施設の視察だが……実際はあちらとの会談だろうな」
 ウズミのその推測は間違っていないだろう。しかし、この期に及んで何を、と思わずにいられない。
「無駄なあがきを」
 そう呟く。
「地球軍に取ってみれば、それこそ認めたくない現実だろうからな」
 自分達が劣勢に立っていると言うことは、とウズミは言う。
「だからこそ、適当なところで地球連合との講和を促さなければいかないだろうな、オーブとしては」
 もちろん、ブルーコスモスの影響が完全に排除してだ。そのためにも徹底的に叩きつぶす必要がある。
「そう考えれば、あの二人がここにおらぬのはよいことであろうな」
 あの二人が自分達にとっての弱点であることは否定しない。当然、あちらもそれは知っているのだ。人質に取ろうと画策するだろう。しかし、いくら連中でもプラントでそれはできないはずだ。
 後は彼女たちが帰ってくる前に自分達が全てを片付けてしまうだけだ。
「あれにはあちらとの交渉を任せるが、かまわぬか?」
 多少不安だが、時間的にあれが一番近い。そう続ける。
「キラが見ていれば大丈夫だろう?」
 ウズミがこう言い返してきた。
「あの子のフォローはカナードにさせればよいか」
 カガリの方はムウに押しつければいい。ミナはそう言って笑う。
「では、あれにはラウ達と合流するように言っておこう。何かおもしろいネタを拾っておるかもしれぬしな」
 同時に自分達も動かなければいけないか。ミナはそう言って立ち上がった。

 翌日、オーブ国内で様々な企業に警察や憲兵が踏み込んだ。
 その日のニュースで、そのほとんどに複数の不正が見つかったと報じられる。しかも、地球軍のダミー企業か関連施設だったと付け加えられた。
 しかも、だ。
 セイランとともにアスハとサハクを首長の座から引きずり落とそうと画策していた。そして、オーブを地球連邦の属国にしようとしていたとも告げられる。
 国民の多くはオーブの理念を大切にしている。それを裏切るような行為だと考えるものが少なくない。
 セイランもそのためにうかつに動けなくなった。
「さて……後は何をすべきかの」
 ミナはそう言って唇の端を持ち上げる。
「まだまだ、追及の手は緩めぬよ」
 あきらめるのだな、とそう付け加えた。
「我らの大切なものに手を出そうとしたことを後悔するがいい」
 私怨かもしれないが、と続ける。
「さて、あちらはどうなっているかの」
 こちらがこれだけ進んでいるのだ。それなりに成果が出ているのではないか。
「手を抜いていたら、お仕置きだな」
 小さな声でそう続ける。
「とはいうものの、呼び戻すにはまだしばらくかかるか」
 キラとお茶をするのはまだしばらくかかるか。そう呟くとミナは少しだけ残念そうな表情を作る。だが、すぐに表情を引き締めると次の指示を出すために行動を開始した。

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最遊釈厄伝