愛しき花
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「はぁ?」
話を聞き終わった瞬間、ムウは自分でも間抜けと思う声を上げてしまった。
「何を考えているんだ、マジで」
そこまで馬鹿だったのか、とそう付け加える。
「馬鹿だったようだよ。キラがいなければ、今頃、厄介な状況になっていただろうね」
暇つぶしに何を作っていたのやら、とラウはため息をつく。
「まぁ、キラだからな」
「そうですね。ギナ様の悪影響でしょう」
本当に、と彼は呟いた。これは後でギナにかみつくな、と心の中で付け加える。
「まぁ、暇つぶしでもなんでも、キラが作るプログラムはすごいってことだろう」
さっさと逃がしておいて正解だったな、と続けた。
「確かにそれは否定できない」
ラウも頷く。
「この艦に連れ込まれていたらどうなっていたか。それを考えるだけで頭痛がする」
彼の言葉にムウは苦笑を浮かべるしかない。
「それに関しては何も言えないな」
カナードへの態度を見ていればすぐに想像がつく。カナードの方は仕事であちらこちらに行っているから受け流せたのではないか。だが、キラは違う。
何よりも、いつ、誰がキラの地雷を踏んでくれるか想像もできないのだ。
自分がそばにいてフォローできるところならばまだいい。だが、立場があった以上、それも難しかっただろう。
「そういえば、キラは?」
「あちらで元気にしているはずだ。今はカガリもそばにいるしね」
他にもアスランとシンもいる。彼らであれば、キラの周囲に危険な人物は一歩も近づけないだろう。
「後はお前に会わせればいいのだろうが……」
「何か問題でも?」
ラウが許可を出せば終わるのではないか。
「ギナ様からの指示だ」
そう言うと彼は端末を差し出して来る。いやな予感を覚えながらもムウはそれを受け取った。そのままモニターを見つめる。
「どこまで人をこき使う気だ、あいつは」
そして、次の瞬間、思い切り後悔した。
さて、とギナは笑みを浮かべる。
「いい加減、仕上げといこうかの」
馬鹿のしっぽもつかんだことだし、と彼は続けた。
「その前にもう一働きしてもらわなければならんの」
特にムウには、と笑う。
「しかし、キラのあれだけは予想外だったか」
彼女がおとなしくしているはずがないとはわかっていた。しかし、自分の役目を取り上げるようなことまでしてくれるとは思ってもいなかったのだ。
「だからこそ守らねばならんがな」
彼女をブルーコスモスに渡すわけにはいかない。
彼女の才能が戦局を左右しかねない、と言うのはもちろんだ。だが、それ以上にあの笑顔を損なわれてはおもしろくない。
彼女のあの笑顔こそ、自分が愛しいと思うものなのだ。
それを守るためならば、気に入らないものにでも預けるのも仕方がない。そう考えている。
「あれの性格に染まらねばいいが」
彼はそう呟く。
「いざとなれば、ザラに預けておけばよいか」
パトリックであればあれもかなうまい。そう続けて笑みを深める。
「花嫁修業でもしておればよかろう」
あちらにもサハクの手のものは潜り込ませてあった。彼らにフォローさせればいいのではないか。
だが、そのためにもさっさと片付けなければいけないことがある。
「と言っても、今は動けぬがの」
ミナの指示待ちだ。そう呟くと、ギナは静かに目を閉じた。