愛しき花
66
くるくると変わる表情は見ていてあきない。同時に、彼女が周囲に大切にされていたのだとよくわかる。
カガリが自慢したくなるのもよく理解できる、とラクスは心の中で呟いた。
同時に、その才能にも舌を巻くしかない。
「……アスラン、これ、保存しておけばいい?」
モニターから視線を話すことなく、彼女はそう呼びかけている。
「さすが、キラ! もう侵入したんだ」
シンが感心したようにそう言った。
「お前……この三年でどれだけ腕を上げたんだ?」
逆にアスランはあきれたようにそう告げる。
「普通でしょ?」
しかし、キラはこう言い返して来た。
「ギナ様に頼まれてハッキングすることがあっただけだし……忙しい方がよかったから」
あれこれ余計な事を考えずにすんだから、と彼女は続ける。
何気なく付け加えられた一言だろう。しかし、ラクスにはそれ以上の意味があるような気がしてならない。
しかし、他の者達はその一言を聞き流している。つまり、それについて知らないのは自分だけなのだ。
「カガリ……」
そっと隣にいる相手に声をかける。
「何だ?」
即座にカガリが聞き返してきた。もっとも、何かを察しているのか。その声はささやきに近い。
「キラ様は……」
「あいつは、目の前で両親を失っている。アスランがプラントに戻ってすぐのことだ」
あの頃のキラは見ていて本当に辛かった。それでも、何かすることがあれば、そのときだけは普通に動いていたが……と彼女はささやいてくる。
「あいつはそれ以前にも家族を目の前で失っている。もっとも、本人にはその頃の記憶はないが」
だから、刺激をするな。彼女はそう続けた。
自分に教えてくれたのはそれが言いたかったからではないか。ラクスは素直にそう受け止める。
「わかりました」
こう言えば、カガリはほっとしたような表情を作った。
「あいつには幸せになってもらいたいからな」
その表情のまま、彼女はそう告げる。
「そのためにも、セイランはぶっつぶさないと」
真顔ではき出された言葉に、ラクスは一瞬目を丸くした。だが、キラの一件にあの一族がかかわっているのではないか、とすぐに思いつく。
それでなくても、あの一族が邪魔だというのは否定できない事実だ。
「確かに。あの方々がおいでになると、まとまる話もまとまりませんわ」
父がそれについて嘆いていたことも覚えている。
「早々に退場していただきたい、と言うのには同意させていただきますわ」
ラクスは微笑みながらそう言い返した。
「だろう? それだけなら我慢してやるが、あいつはキラに面と向かって『愛人になれ』と言ってくれたしな」
それだけでも許しがたい。カガリはそう言うと同時に拳を握りしめる。
「それも、愛情があるからじゃない。キラがかわいいから、脇に置いておけば自慢できると言っていたし」
コーディネイターだからかまわないだろう。そう言っている人間なんて、ちょん切ってやればよかったか。さらにこう付け加える。
「そこまでは言いたくなる気持ちもわかりますわね。女性は道具ではありません」
コーディネイターだろうとナチュラルだろうと同じだ。ラクスはそう口にした。同時に、セイランの一族は徹底的に叩きつぶそうと思う。
「とりあえず、これで終わり、でいいの?」
キラがアスランに問いかけている。
「あぁ、十分だ」
それに彼はこう言い返す。
「後は、父上達の仕事だろう」
後はゆっくり休め。彼のその言葉を耳に、ラクスはゆっくりと立ち上がった。