愛しき花

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 キラの表情が引き締まる。
「アスラン」
 その表情のまま、彼女は彼を呼んだ。
「何だ?」
「ハッキングしちゃ、だめだよね?」
 この言葉にカガリは苦笑を浮かべるしかない。アスランは目を丸くしたまま彼女を見つめている。
「どうやら、目的地はアルテミスみたいなんだよね」
 ワームの、と彼女は付け加えた。
「そこから先はどこに行くのかまではちょっと無理」
 ここの設備では、とキラは続ける。
「どうしてだ?」
 アスランがそう問いかけたときだ。シンが戻ってきた。
「……イザークさんに『あちらに戻る』って言われたけど、さっきの件?」
 ドリンクを手渡しながら彼はこう問いかけてくる。
「おそらくな」
 アスランはそう言い返す。
「今、キラが送信先を突き止めたところだ。それも関係しているんだろう」
 さらにそう付け加えた。
「……どこ?」
「アルテミスだ」
 ため息混じりにそう言えば、シンも即座にいやそうな表情を作る。しかし、それはすぐに笑みに変わった。
「すごいじゃん、キラ! あたりだったな」
 そのままキラへと視線を向ける。
「あんまり、当たって欲しくなかったけど……」
 キラはそれでもどこか浮かない表情だ。
「でも、事前に防げたんだし、十分だろう」
「そうですわね。何もなく終わったのですから、十分効果があったと言えますわ」
 シンの言葉にラクスも頷く。
「ギナ様なら、それもこちらに有利な材料にしてくださるって」
 えぐそうだけどな、とカガリは笑う。
「ギナ様よりミナ様の方がすごいよ」
 一度見たことがあるけど、とキラは言い返す。
「確かに。気がつけば逃げ道を全てふさがれてるんだよな、あの人相手だと」
 カガリがそう言ってため息をついた。どうやら手痛い失敗をしたと言うところか。
 と言っても、致命的なものではないはずだ。彼女たちを可愛がっているロンド・ミナのことだから、そうなる前に経験させたのかもしれない。
「どちらにしろ、こちらには悪いことは何もない。多少、あちらでの任務が増えたぐらいだ」
 キラを納得させるためにアスランは口を開く。
「もっともイザークとラクスには申し訳ない結果になったかもしれないが」
 ろくに話もしていないのだろう? と続ける。
「大丈夫ですわ」
 それにラクスが笑みとともにこう言い返してきた。
「わたくしはともかく、イザークは任務中ですもの。最初から覚悟はしておりました」
 助けに来てくれただけで十分、と彼女は続ける。
「……ずいぶんと奥ゆかしいセリフだな」
 珍しい、とカガリが呟く。
「何かおっしゃいまして?」
 即座に彼女が聞き返す。その声の裏に潜んでいるものに気がついたのだろう。シンが小さく身震いをしている。
 しかし、キラは意味がわからないのか、首をかしげて見せた。
「カガリに比べれば誰だって奥ゆかしいだろう」
 ごまかすようにアスランはそう言う。まだここで、キラにラクスの本性を知らせない方がいいような気がしたのだ。
「確かに」
 それがわかっているのか。シンも頷いている。
「お前ら……後で覚えていろよ?」
 ラクスが低い声でこう言う。
「それよりも、今はもう少し詳しいデーターが欲しい。作業領域を確保させるから頼んでかまわないか?」
 視線を移動させると、アスランはそう告げる。
「ついでに、アルテミスのマザーをハッキングしてもいい? アルテミスの傘についてギナ様が興味を持っていらしたから」
 嬉しそうにキラがこう言い返してきた。アスランが頷けば、無条件でそうするだろう。
「……ほどほどにな」
 アスランは数年ぶりで彼女にこう告げた。

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最遊釈厄伝