愛しき花
63
シンが逃げ出すように出て行く。
と言うよりも、キラの機嫌を取るためだろうな。心の中でそう呟きながらアスランはキラへと視線を向ける。
「何が目的なのか、わかるか?」
そして、こう問いかける。
「……システムじゃないね」
キラはきっぱりと言い切った。
「暗号システムの解析かな、目的は」
そして、すぐにこう付け加える。
「どうしてそのようなことを?」
興味を引かれたのか。ラクスがこう問いかけてきた。
「偽の命令を流すため、かな?」
キラはそう言って首をかしげた。自分でも自分の言葉に自信がないのだろうか。
「ザフトの命令系統がどうなっているのかわからないけど、地球軍やオーブ軍なら十分可能な方法だよね」
しかし、キラはあっさりとこう言ってくれた。
「……不本意だがな」
ため息とともにカガリが同意をする。
「セイランの馬鹿のせいで軍内部の改革が進んでいない。そのせいでつけいられる隙がありまくりだ」
困ったものだ、と彼女ははき出す。
「しかし、それがザフトにも通用すると考えている。そんな馬鹿がいるとはな」
あきれるしかない、とカガリは言い切った。その判断は正しいだろう。
「しかし、それが何故、あの艦から? 軍人は全て拘束しているはずだぞ」
アスランはそう口にする。
「……モルゲンレーテかな?」
「モルゲンレーテだろうな」
キラとカガリがこう言って頷き合う。
「あそこなら、セイランの影響があってもおかしくないし……ブルーコスモスが入り込んでいてもわからないよ?」
キラが眉根を寄せながらそう言った。
「だめだろ、キラ。眉間にしわが寄る。そう言う表情はアスランに任せておけ」
それはなんなのか、と言いたくなるセリフだ。しかし、確かにキラの眉間にしわが寄るのはいやだ、と思う。
「確かに、キラにそんな表情が似合わないな」
そう言って微笑んでみせる。
「確かに。キラ様のお可愛らしいお顔には似合いませんわ」
さらにラクスまでもがこう言ってきた。
「ラクスさんの方がかわいいです」
キラは真顔でそう言い返す。
「カガリもラクスさんをまねすればいいのに」
そうすればインパクトがあるし、とキラは続ける。
「カガリはそのままでいい」
ラクスのまねなんかをされれば、自分の精神状態が悪化する、と心の中で付け加えた。
「ラクスはラクスだしな。まぁ、もう少し落ち着けとカガリには言いたいが」
本音を隠してこう言う。
「……何か引っかかるが、まぁいいとしよう」
カガリはそう言い返してくる。
「ともかく、オーブの人間だというなら、カナードさんに任せろ」
彼女はさらにそう付け加えた。
「そのあたりは考えておこう。まずはイザークが戻ってきてからだ」
とりあえず、一度落ち着こう。アスランがこう言えばカガリが小さく頷く。
「……データーだけあっても、意味はないのに」
キラがこう呟いているのが耳に届いた。