愛しき花
62
アスラン達も今は時間があるという。だから、とそのまま部屋の中で話をしていたときだ。いきなりキラのパソコンから警報に似た音が鳴り響く。
「キラ?」
「……さっき作ってたあれが何かに反応したんだと思うけど」
シンの問いかけに彼女はこう言い返してくる。
「だよな」
それしかないだろう、とシンはため息をつく。
「シン?」
キラは何を作ったのか。アスランが言外にこう問いかけてくる。
「ワームだってさ」
即座にシンは言い返す。
「戦闘中の暇つぶしに作っていた。ハッキングされるかもしれないからって……」
そういえば、先ほど、キラのパソコンをつなげたな。シンはそう呟く。
「……キラ、悪いが……」
「ヴェサリウスとガモフ、それと、この艦の信号を出しているMSなら大丈夫だよ」
キラはそう言って笑った。
「ラウさんから、識別信号を教えてもらったから」
この言葉に、シンだけではなくアスランとイザークも頭を抱えた。そこまで機密を明かしてもいいのか。そう考えたのだ。
「……まぁ、ヴェサリウスに危害がないというなら、妥協するしかないだろうな」
こめかみを押さえつつ、アスランはそう結論を出す。
「ともかく、キラ。確認してくれ」
彼の言葉にキラは頷いた。そのままデスクへと移動をする。
パソコンを起動するとなにやらキーを操作していた。
「……アスラン」
「何だ?」
「あの艦にはレイがいるんだよね?」
キラの問いかけにアスランだけではなくイザークの表情がこわばる。
「あそこからハッキング? 少なくとも、許可のないアクセスだと思う」
もっとも、とキラはふわりと笑った。
「あっちで警報が鳴っていると思うけど」
今なら犯人を見つけ出せるのではないか。キラはそう言う。
「イザーク」
「わかっている。すぐに連絡を取る。お前はキラに協力してもらって、もう少し詳しいことを確認しろ」
「後を頼む」
こんな会話を交わすと、イザークは部屋から出て行った。
「僕、失敗した?」
それを確認してからキラがアスランに問いかけている。
「いや、逆だ。安心しろ」
むしろ、事前にわかってよかった。彼はそう言って笑う。
「アスラン達が心配していたのは、この艦のシステムが破壊されないかどうかだろ」
カガリがそう言ってくる。
「そんなことはしないよ。この船にはみんなが乗っているんだし」
そんなことをしても意味はない。キラはきっぱりと言い切る。
「……さすがはキラ……やっぱ、ずれてる」
感心していいのかどうかわからないまま、シンはこう言った。
「ちょっと甘やかしすぎたかもな」
カガリも真顔でこう言っている。
「何だよ、それ!」
キラの頬がみるみる膨らんでいく。
「そう言われるなら、本気でハッキングするからね。ヴェサリウスは禁止されていても、プラントのは禁止されてないから」
その表情のまま、彼女はこう言ってくれた。
はっきり言って、それはまずい。
「悪い、キラ。調子に乗りすぎた」
シンは即座に謝罪の言葉を口にする。このまま彼女をすねさせておくと本当に実行に移しかねない、とよく知っているのだ。
「……甘いの、食べたい」
即座に彼女はこう言い返してくる。
「三人ぶんな」
さらにカガリがこう言ってきた。
「……はいはい。厨房で頼んでくるよ」
今は自分の方が立場が悪い。しかし、カガリのちゃっかりぶりは気に入らない。そんなことを考えながらアスランの顔を見つめる。
「頼んだぞ」
つまり、彼は動く気がないのだろう。あるいは、キラにさらに確認させるつもりなのかもしれない。それは仕方がないのか。
そう考えると、シンはまた厨房へ向かうために腰を浮かせた。