愛しき花

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 ふわふわとした外見の少女がカガリの背後から姿を見せた。しかし、その見かけにだまされてはいけない、とキラは思う。
「キラ。こいつはラクスだ。ラクス・クライン」
 その家名には聞き覚えがある。
「シーゲル・クライン議長の?」
 キラは確認するように問いかけた。
「そうだ。ついでに、ラクスはイザークの婚約者だ」
 こう教えてくれたのはアスランだ。
「この年で《ザフトの歌姫》とも呼ばれる歌い手でもある」
 そう言う存在がいるとは聞いていた。確かに、外見だけならばそれにふさわしいだろう。
 しかし、と思いながらキラはカガリに近づいていく。
「ひょっとして、ラクスさんはミナ様の同類?」
 そして、彼女の耳元でこうささやいた。
「さすがはキラ。一目で見破ったか」
 カガリはそう言ってキラの肩を叩く。
「そいつは交渉相手としては死ぬほど手強いぞ」
 彼女はさらにそう付け加える。
「まぁ、ひどいですわ、カガリ」
 ラクスがそう言いながら加わってきた。
「あなたがうかつなだけですわよ?」
 彼女はそう言って微笑む。
「……そうは言うけどな」
 カガリはそう言って頭をかく。
「お前に口で勝てる人間なんているのか?」
 そのまま、彼女は周囲を見回す。さりげなくアスラン達が視線をそらすのがわかった。
「いらっしゃいますわよ、きっと」
 ラクスはそう言って首をかしげてみせる。そうすれば長く伸ばされたピンクの髪がさらりと音を立てて流れる。
「わたくしの顔がどうかしまして?」
 ラクスがこう問いかけてきた。
「きれいな髪だなって」
 キラがそう言い返す。
「ありがとうございます」
 ラクスがふわりと微笑んだ。
「でも、わたくしはキラ様の髪もおきれいだと思いますわ。それ以上に、キラ様の瞳はお美しいですわね」
 その表情のまま、彼女はこう言ってくる。面と向かってこんな風に言われたことはない。だから、と言うわけではないがキラは頬が熱くなるのがわかった。
「当たり前だろう。うちのキラは世界一かわいいんだ」
 カガリが胸を張る。
「……それは違うと思うぞ」
 アスランが疲れたようにこう呟いた。
「まぁ、人それぞれだからな」
 その隣でイザークが苦笑を浮かべる。
「そいつがかわいいのは否定しないが」
 さらりと彼はそう付け加えた。その瞬間、アスランとシンが信じられないという視線を彼に向ける。
「わたくしよりも、ですか?」
「方向性が違いすぎて比較できないな」
 ラクスの言葉にイザークはこう言い返した。
「そうですか。あなたにしては珍しいお言葉ですが、いいことにさせていただきましょう」
 ラクスは小さく頷く。
「ともかく、座って飲み物でも飲めば? 時間はあるんだし」
 シンがそう提案してくる。
「カガリさんはともかく、キラとラクス様は疲れているだろうし」
 さらに彼はそう付け加えた。
「……何で、私は抜きなんだ?」
 即座にカガリが問いかけてくる。
「コーディネイターを一撃で気絶させられるような人が、このくらいの時間で疲れを感じるわけないじゃん」
 むしろ、動き足りない言うのではないか。シンはそう言い返す。
「そういうことなら、まぁ、許してやろう」
 カガリは苦笑とともにそう言った。
「キラの紹介も終わったし、後はゆっくりとするか」
 ギナが来るまでのことだろう。カガリはそう言ってため息をつく。
「でも、カガリに会えて嬉しいよ」
 キラのこの言葉に、彼女は笑い返してくれた。

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最遊釈厄伝