愛しき花
57
艦内を掌握するためにアスランは乗り込む。もちろん、イザークも一緒だ。
「問題は、あの二人がどこにいるか、だな」
特にラクスが、とアスランは口にする。
「オーブ側で何か対策を取ったと言うことか?」
即座にイザークが問いかけてきた。
「人質に取られれば作戦に支障が出るからな」
二人とも、とアスランは言い返す。
「それでなくても、カガリの場合、何をしでかしてくれるかわからない性格だというのに」
ラクスも同じだが、とはあえて口にしない。それはイザークの方がよく知っているはずなのだ。
「何とか、二人に避難することを納得させたと言うことか。すごい人物だな」
イザークはそう言ってくる。
「きっと、カガリと一緒にいた人物だろうが」
サハクの人間だ、とキラが言っていた彼だろう。それでも、カガリはともかくラクスまで納得させたのは実力があるからだろうか。
何か悔しいと思う。
「ともかく、早々に身柄を確保してキラと一緒にヴェサリウスで保護しておくべきだろうな」
面倒はシンに押しつけてしまえばいい。一人で三人分振り回されるのはかわいそうだが、あきらめてもらおう。そう呟く。
「キラが一緒だから、カガリはおとなしいだろうし」
そう言った瞬間だ。敵意のこもった視線が絡みついてくる。
「イザーク」
「わかっている」
自分達はこの艦のクルーから見れば敵なのだ。例え、彼らの方から投降したにしても、一朝一夕に考えを変えることは難しいのだろう。
監視のために来た兵士に危害を加えることは条約で禁止されている。もちろん、その逆もだ。しかし、ここでは何があるのか、油断はできない、と言ったところだろう。
さりげなく、腰につけた銃を確認する。
「てめぇら! 仲良くしろとは言わないが、殺気を向けるな」
それを抜くよりも先にこんな声が響いてくる。
「俺たちは負けたんだ。潔くそれを認めろ」
さらに彼はそう付け加えた。そんな彼の態度にイザークが珍しく感心したような表情を作る。
「地球軍にもああいう人物がいるのか」
そう言いながら、彼は声の主へと視線を向けた。
「おそらく、現場でたたき上げた人物なんだろうな。そう言う者達には相手の実力を素直に認められる人物が多いと、昔キラのお父さんに教わった」
彼はナチュラルだったから、とアスランはそう付け加える。
「……なるほど。お前がナチュラルに対し、あまり偏見がないのは婚約者の存在だけではなかったと」
「そういうことだ。キラのご両親は、俺の両親の友人でもあったからな」
もし、彼らが今でも生きていてくれたなら、パトリックはもう少しナチュラルへの怒りを弱められたのかもしれない。同時に、彼らの思い出があるからこそオーブとの関係までは断ち切ろうとしないのだろう。
キラのこともそうだ。
あの父が率先して受け入れを表明したのは、彼女がサハクとアスハの関係者、と言うだけではない。あの二人の子供でもあるからだろう。
「まぁ、カガリは悪い意味でもナチュラルの範疇に入らないかもしれないが」
苦笑とともにアスランはそう続けた。
「……そうか」
もっとも、ラクスにしても一筋縄でいかない相手だ。そう考えればお互い様というところかもしれない。
「個人的には、あの二人は早々に距離を取らせたいがな」
あの二人がセットで何かをしでかしてくれたら、止めるのは難しいような気がする。そう呟いた時だ。
「そう思うなら、さっさと引き取れ」
不意に聞き覚えがある声が耳に届く。いったいどこから来たのか。気配すら感じ取れなかった。
「カナードさん?」
とりあえず、確認のために声をかける。
「キラから聞いたか」
彼はそう言うと目を細めた。そうすれば、少しだけ雰囲気が柔らかくなる。
「あいつも元気そうだな」
そうでなければどうなっていたのか。そう思わせる一言だ。
「一緒に会いにいきますか?」
「そうしたいところだが、ギナ様からの許可が出ない」
やることが残っているからな、と彼は続ける。
「それを早々に終わらせるためにも、あの二人をさっさと引き取れ」
その声音に微妙に疲れが混じっているような気がするのは錯覚ではないだろう。
「いったい、何をしたんだ、ラクスは……」
同じ感想を抱いたのか。イザークもそう口にする。
「知りたいか?」
教えてやるぞ、とカナードは笑う。
「……後でいいです」
それを聞いたら、カガリを連れて行く気力がでないかもしれない。心の中でそう呟いたのがわかったのか。カナードが肩を軽く叩いてきた。