愛しき花
56
目の前にブリッツの銃口がある。
「……いつの間に……」
ラミアスはそう呟く。
「わかりません……ミラージュコロイドを使ったものだと」
あれを使われては全てのセンサーは役に立たない。だから、と報告が来る。
「まさか、自分達が作ったものに足下をすくわれるとはね」
彼女はそう言ってため息をつく。
「こうなれば仕方がありません。降伏信号を……」
「それには反対です!」
即座にバジルールが反論をしてくる。
「他に方法があるの?」
ないでしょう、と言外に問いかけた。
「あの、コーディネイターの少女の身柄を交渉材料に使えばいいだけです」
その瞬間、ブリッジ内の空気が二つに割れる。
「彼女は民間人よ。その民間人の命を盾に取るとは、無法者のそしりを受けてもおかしくないわね」
ラミアスは即座にそう言い返す。
「第一にして、彼らがそれを許してくれると思うの? 私達が不審な動きを取れば、無条件で撃ってくるでしょうね」
その前に彼女をここに連れてこられるんか。言外にそう問いかける。
もちろん、それは不可能だとわかっていた。
自分達は部屋から姿を消したあの二人の少女の行方を未だにつかんでいない。そして、艦内を捜索しようにも、現状ではそのために人員を割くことはできないのだ。
「第一、この艦に保護されているオーブの民間人の命はどうするの? 彼らの存在はすでにオーブ側に知られているのよ」
その結果、オーブが公然とプラントの味方をしたらどうなるのか。
「ここあるデーターよりも地球軍が勝利できるかもしれない可能性を残す方が重要でしょう」
自分達が開発したもののデーターは極力、月へと送ってある。それを利用して新たな機体を開発することも可能だろう。
だから、自分達がすべきなのは、これ以上の汚名を地球軍に着せないことではないか。
「それとも、あなたは自分達がオーブの民間人を道連れに無謀な行為を取った大馬鹿者、と言われたいの?」
ラミアスは逆にこう問いかける。
「……それは……」
「あなただけではないわね。おそらく、ご家族にもその話はついて回るわ」
さすがにそれは申し訳ないのではないか。ラミアスはそう続ける。
「私のように帰る家も家族もいなければかまわないけど」
彼女の言葉にバジルールは悔しげに唇をかむ。
「何よりも、この艦の艦長は私です。例え、それが本来の役目でなかったとしても、です」
だから、と彼女は続けた。
「最終決定権は私にあります」
きっぱりとそう言いきる。
「これ以上、戦っても無駄です。それよりも、命を大切にすることを優先しましょう」
それが自分達の矜持だ。ラミアスはそう言う。
「……艦長?」
ノイマンが確認するように呼びかけてくる。
「信号弾を。無駄に降伏を引き延ばしても意味はないでしょう」
その言葉に彼は頷く。そして、コンソールを操作した。
虚空にまばゆい花が開く。
それがどのような意味を持っているのか。軍人であれば知らないものはいない。
「ようやく、か」
ムウは小さな声でそうつぶやく。
「だからと言って、手加減してくれそうにないがな」
こいつは、とため息をついた。
「まぁ、適当なところでさっさと白旗を揚げるか」
それが無難だろう。そう判断をする。
「まぁ、一矢報いてからだがな」
そのくらいの矜持を見せてもかまわないだろう。そう呟くと、ガンバレルを操作した。