愛しき花

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 不意に、敵艦の動きが止まった。
「どうやら、予定通りの行動がとれる状況だったようだね」
 一番の心配はそれだった。ラウはそう呟く。
「……ラウ?」
「何。あちらは彼らに任せておけばいい。私達はこれをおとなしくさせるだけだ」
 いくら地球軍に気取らせないためとはいえ、いい加減、手を抜いてくれればいいものを。心の中でラウはそう呟く。もっとも、自分が彼の立場であれば、そのようなことは考えもしないだろう。
 ある意味、自分達はよく似ている。
 だからこそ、ウズミやヤマト夫妻も自分達の決断を止めなかったのだろう。
「しかし、このような場での兄弟喧嘩は、慎むべきかな?」
 さすがに、とラウは付け加えた。
「どうでしょう。やめないムウも悪いと思いますが?」
 だが、どこで誰が監視しているかわからない以上、仕方がないのか。あるいは、あの機体にも何かがつけられているのかもしれない。
 レイはそう指摘してきた。
「まぁ、その可能性もあるね」
 そばにカナードがいる以上、その程度のことは解除されているだろうが。そう心の中で付け加える。
 しかし、どうやらレイはムウに多少なりとも夢を持っているらしい。それを壊すのもどうだろうか。
「まぁ、本人を捕まえてから確認しよう」
 それが一番手っ取り早い。ラウはそう判断する。
「レイ。少し振り回すからね。しっかりと掴まっていなさい」
「はい」
 レイの言葉を確認すると、ラウは一気に機体を加速させる。
 全身に重しがつけられたような感覚に襲われた。しかし、その程度で操縦を誤るような訓練はしていない。
 もっとも、レイには辛いかもしれないな、と心の中だけで付け加えた。
 だが、我慢してもらうしかない。
 今は、ムウの動きを止める方が優先だ。
 そう判断するとライフルを構える。
「まずは、あの小うるさいガンバレルを何とかしないといけないね」
 あの男の口のようにうるさい、と心の中で呟いた。
「ラウ?」
 レイが不安そうに問いかけてくる。
「任せておきなさい」
 そんな彼にこう言い返す。
「私もさっさと終わらせたいからね」
 相手の矜持など考えてやる余裕はない。そう呟くと、ラウは操縦桿を握り直した。

 退屈なのか、キラはモバイルを引っ張り出すと作業を始めた。
「まぁ、ネットワークにつながってないからいいか」
 本当は止めた方がいいのかもしれないけど、とシンは呟く。
「でも、何作っているんだ?」
 シンはそう問いかけた。もっとも、返事はあまり期待していなかったが。
「……ワーム?」
 しかし、珍しくキラは言葉を返してくれる。
「ハッキングしてきた人のところに行って、あれこれといたずらするプログラム、と言えばわかるかな?」
 さらに彼女はこう付け加えた。
「何か、必要になるような気がしたから」
 別に誰に頼まれたわけではないが、と言われて、シンは脱力する。
「そうなのか?」
 それはかなり厄介な状況ではないのか。そう思いながら聞き返す。
「あくまでもカンだけどね」
 キラはそう言った。
「ちなみに、被害を受けるのは?」
 シンの問いかけにキラは首をかしげる。
「セイランか地球軍じゃないかな」
 あくまでも推測だけど、とキラは続けた。
「なら、止める理由はないか」
 シンはそう言って笑う。
「むしろ、推奨?」
 がんばれ、と続ければ、キラは小さく頷いて見せた。

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最遊釈厄伝