愛しき花
53
指示された避難所でキラはおとなしく座っている。
「大丈夫だって。今回はサハクとの共同作戦だから、すぐに終わるよ」
シンがそう声をかけてきた。
「モルゲンレーテの技術陣が拉致されたから、って言うのはわかるけど……」
どうして、とキラは首をかしげる。
「新型の開発にかかわっていた人たちとその家族、だってさ」
シンは即座にこう教えてくれた。
「十分にあり得ることだよ」
悔しいけど、と彼は続ける。
「オーブにだってあったからな。セイラン関係で」
全く、と呟く表情から判断して、それは本当のことなのだろう。セイランなら十分にあり得る、と思える程度にはキラも連中の被害を受けていた。
しかし、とかのじょはため息をつく。
それはあくまでも自分だけのことだとも考えていたことも否定しない。
「今度、ギナ様あたりに相談してみよう」
小さな声でキラはそう呟く。
「きっと、セイランの足をすくう材料にしてくれるはずだから」
そうすればきっと、カガリとアスランも安心できるはずだ。
「……キラって、そんなこと言うんだ」
シンが驚いたようにこう言ってくる。
「だって、このくらいできないと何をされるかわからないんだもん」
守ってくれる人もいなくなったし、とため息とともに呟く。
「……そうだったっけ」
次の瞬間、シンは申し訳なさそうな表情を作る。
「気にしなくていいよ。代わりにミナ様とギナ様があれこれ気を遣ってくださったし……カガリはよく家出してきたし」
前者はともかく、後者はかなりまずいのではないか。そう思わずにいられない。同じ気持ちになったのか、シンは複雑な表情になっている。
「レイもいてくれたしね」
そう言って微笑めばシンは納得したというように頷く。
「ちょっと気に入らないこともあるけど、まぁ、いいことにする」
そして、彼はこう言ってきた。
「気に入らないこと?」
何、と聞き返す。
「内緒」
即座に彼は顔を背ける。それが恥ずかしがっている時の仕草だと知っているから、あえて何も言わない。
「それにしても、セイランって存続できるのかな」
今回のことが片付いた後に、とキラは呟く。
「無理じゃね」
即座にシンはそう言ってくる。
「何か、クルーゼ隊長をはじめとしたプラントの偉い人たちも怒りまくっているって言う話だからさ」
ラウだけでも怖いのに、と彼は続けた。
「カガリとアスランも何かやるだろうしね」
まぁ、その方が後腐れなくていいのではないか。キラはそう思う。
「ともかく、このくらいの作戦で隊長達がどうなるとは思えないから、安心していていいんじゃないかな」
シンはそう言って笑った。
「それは心配してないけど、レイまで連れて行くことないよ」
彼は軍人ではないはずなのに、とキラはため息をつく。
「あいつの出番は最後だそうですよ。あっちの艦を掌握してからだとか。キラさんにさせるわけにいかないでしょうしね」
オーブの人間だから、とシンは言う。その点、レイはプラントの人間だから問題は少ない。そう判断したのだろう。
「第一、俺、まだカガリさんに殺されたくないし」
キラにそんなことをさせた飛ばれたら、間違いなく被害は自分にくる。他の誰かが命じたとしても、だ。シンはそう主張する。
「……うん、カガリならやるね」
キラはそう言って頷く。
「だろ? だから、キラには頼めないんだよ」
頼むからおとなしくしていてくれ。シンはそう続ける。
「……僕だけすることがないのはつまらないんだよね」
ため息混じりにキラはそう言い返す。
「カガリさんの被害を抑えるという最重要な仕事をしているじゃん」
それだけで十分、とシンは真顔で訴えてくる。それにどう反応を返すべきか。キラは一瞬悩む。しかし、次の瞬間、無意識に吹き出していた。