愛しき花

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「ラクスこっちだ」
 カガリはそう言って彼女を手招く。
「あらあら……こんなところに入ってよろしいのですの?」
 ラクスはいつもの口調でこう問いかけてきた。
「入って隠れていろ、と言うのがカナードさんの指示だからな」
 しかも、だ。万が一のための準備もすでにできているらしい。これは間違いなく、ムウが協力したから可能だったのだろう。
「私もさっさとここから出たいし」
 もっと言えば、キラの顔を見たい。アスランの顔も、まぁ、見ておくべきだろうか。
「……わたくしも、早めにプラントに戻らなければいけませんわね」
 確かに、とラクスも頷く。
「そのために必要があるのでしたら、仕方がありません」
 しかし、そのわざとらしいため息はなんなのか。
「わたくしがこの艦を掌握しようと考えておりましたのに、残念です」
 やはりか、とカガリは頭を抱えたくなる。
「それはカナードさんがするから」
 彼がやる方が被害が少ない、と心の中だけで付け加えた。
「他人の仕事を取るな」
 周囲のために、と考えるだけにしておく。
「……お手伝いはご迷惑ですか」
「タイミングがずれると厄介だからな」
 今回だけは、と続ける。
「ギナ様とカナードさんだけならばともかく、ザフトも作戦に加わっているからな。柔軟な対応は難しいだろう」
 そう考えれば、イレギュラーは少ない方がいい。特に、彼らの目の届かないところでは、だ。
「仕方がありませんわね。今は、おとなしくしておきます」
 深いため息とともに彼女はそう言う。
「そうしてくれ」
 本当にラクスは何をするつもりだったのか。それは気にかかる。
 だが、今は彼女を避難場所に押し込める方が先決だろう。
「ともかく、行くぞ」
 そう言うと同時にカガリは彼女を奥へと押し込んだ。

 何気なさを装って時間を確認する。
 作戦開始まで後数分と言ったところだろうか。
「……おとなしくしていてくれればいいが」
 それを確認してカナードはそう呟く。
「嬢ちゃんか?」
 それが耳に届いたのか。背後から声がかけられる。
「カガリよりももう一人の方が問題ですね」
 苦笑とともにそう言い返す。
「もっとも、気持ちはよくわかりますが。誰だって、閉じ込められてはやっていられないでしょうからね」
 自分はまだ、ムウの手伝いという名目でデッキにいられる。
 しかし、だ。自分が責任を持つと言ってもカガリとラクスを連れ出すことには難色を示された。これだけ地球軍の目がある場所になのにもかかわらず、だ。
「あぁ……確かにな」
 マードックは小さく頷いてみせる。
「他の連中は割と自由に動けるし、そうでなくても知り合いと話しができているらしいんだが……」
 カガリ達はそれも難しい。気分転換もしにくいのではないか。彼はそう続けた。
「少しぐらいはかまわないだろうに、あの人も頑固だからな」
 きまじめなのはいいが、他国の人間にまでそれを求めるのはどうなのか。彼はそう呟く。
「タイミングを見て、大尉に頼んでみるしかないんだろうな」
 当てにならないかもしれないが、とマードックは付け加える。
「それよりも俺としては自分の仕事は自分で片付けて欲しいですね」
 全く、と呟いた。
「あぁ、それはそうだな」
 まったく、今日はどこに逃げた? と彼は続ける。
 その瞬間だ。艦内に警報が鳴り響いた。

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最遊釈厄伝