愛しき花
50
「やっとか」
イザークがそう呟く。
「しかし、これは……」
本気か、とディアッカが口にする。
「本気だろうな」
自分の知っている《ロンド・ギナ・サハク》と言う人物であればこのくらいはまだまだ手ぬるい方だろう。アスランはそう心の中だけ付け加えた。
もっとも、自分が知っているギナの人柄は、あくまでもキラとカガリから聞かされたことから推測したものだ。それが偏見にまみれたものではないと言いきれない。
「とりあえず、自分の役目を確実に遂行するだけだ」
それ以上のことは混乱の元になるのではないか。
しかし、だ。状況次第ではそれを承知で動かざるを得ないだろう。
そうならないことを希望するが、とアスランは心の中で付け加える。
「確かに、それが無難だよな」
抜け駆けをしたせいで民間人に被害が出ては意味がない。ディアッカですらこう言って頷いて見せた。
「一番大変なのはニコルかもしれないがな」
彼はそう続ける。
「覚悟の上です」
ニコルはそう言い返した。
「それに、僕がきちんと役目を果たせば、民間人には被害を出さずにすむはずです」
もっとも、と彼は続ける。
「あちらが軍人としての矜持を捨てなければ、ですが」
その言葉にアスランをはじめとした者達は即座に眉根を寄せた。
「何が言いたい、ニコル」
イザークが低い声で問いかける。
「ラクス様達を人質にして逃げ出さないか、と言うことです」
そんなことをされれば、自分達は動けなくなるだろう。彼の言葉には説得力がある。
「それについては大丈夫だ」
今まで黙って聞いていたラウが不意に口を開く。
「そうさせないために、今まで時間をかけたのだよ」
あちらにも自分達の味方がいる。彼はそう言って笑った。
「……オーブの?」
「そうだ。もっとも、あれに乗り込んだのはあくまでも偶然のようだがね」
それがなければ、もっと話は簡単だったのではないか。ラウはそう続けた。
「どちらにしろ、我々はサハクに協力をしないわけにはいくまい」
艦内でラクスを守れるのは彼らだけだ。ラウの言葉に誰もが頷く。
「ともかく、我々がすべきなのは少しでも早く敵の艦を掌握することだろう」
それと、と彼は続ける。
「これは機密事項なのだが……メビウス・ゼロのパイロットはサハクの人間らしい。極力、撃墜だけは避けるように」
どうして彼は爆弾発言が好きなのか。
「……隊長……そう言うことは最初に教えてください」
ミゲルが脱力をしながらそう告げる。もっとも、それは皆同じ気持ちだ。
「私も先ほど知ったのだよ」
しれっとラウが言い返して来る。
「もっとも、あれが出てきたら私が相手をする予定だがね」
それが一番手っ取り早い。彼はそう言って笑った。
「了解しました。メビウス・ゼロが出てきたら、隊長に連絡をします」
その余裕があればだが、とミゲルが言う。
「楽しみにしていよう」
何か微妙に違う意味にとれるのはどうしてだろうか。しかし、それを指摘してはいけないという気もする。
「では、準備をするように」
作戦を開始する、とラウは宣言をした。
「はい」
それは待ち望んでいた言葉だ。だからためらうことなく言葉を返した。