愛しき花
49
モニターに映しださている数字の羅列はなんなのか。
「……キラ……」
きっと彼女にはわかっているのだろう。そう考えてラウはキラに問いかける。
「たぶん、いつもの暗号だと思います」
こう言いながら、キラは首にかけているチェーンを引っ張った。その先にはしゃれたデザインのケースがついている。その中に小さなメモリーが納められていた。
ためらうことなく、キラはそれをパソコンへと差し込む。
「確か、これに……」
そう口にしながら彼女はプログラムを起動する。その次の瞬間、数字の羅列が意味のある文字へと変わった。
「ラウさん、できました」
キラはこういうと彼を見上げてくる。
「ありがとう」
笑みを返すと視線をモニターへと戻した。
「……なるほど」
ざっと視線を通しただけで彼が何をしようとしているのかわかる。
それに合わせてこちらの作戦を考えなければいけないだろう。
「キラ。これはコピーするとどうなるのかな?」
「……解読ソフトを経由しないと元通りです」
ラウの疑問にキラはこう言い返す。
「さて……それは困ったな。これを見て検討したいのだが」
何か方法があるか、と言外に問いかけた。
「プリントアウトするぐらいかな? 解読ソフトはコピーするのにちょっと手間がかかるから」
受け入れる側に別のソフトを入れなければいけないから、とキラは教えてくれる。
「そうか。ならば、プリントアウトをしてもらおうか。私の部屋のプリンターが使える」
シン、とラウはそばにいる彼を呼び寄せた。
「はい」
そう言うと、シンはすぐに近づいてくる。
「君のIDを使って作業をするように」
この言葉に彼は「わかりました」と言葉を返してきた。
「では、キラ。頼んだよ」
言葉とともに彼女の紙に手を置く。そして、そっとなでた。
「わかりました。時間を取らせてしまって申し訳ありません」
キラはこう言い返してくる。
「君が謝ることではないだろう?」
誰が悪いかと言えば、やはりギナだろう。もう少し別の方法を使ってくれればいいものを、とラウは心の中で付け加える。
もっとも、他の誰かに見られれば厄介なのは事実だ。それを懸念したと考えれば、妥協するしかないのだろうか。
「それよりも、あまり根をつめないように。いいね」
作戦が成功すれば、ラクスだけではなくカガリもこちらに来ることになる。そうなれば、キラもゆっくりとしていられないのではないか。
「大丈夫です。僕は結構丈夫ですから」
しかし、キラはこう言い返してくる。カガリのことを知らないのだから当然かもしれない。
「それでも、だよ。心配ぐらいさせなさい」
今は、自分がキラの保護者なのだから。ラウはそう言う。
「……ありがとうございます」
キラが小さな声でそう答えた。
「いい子だね、君は」
目を細めるとそう告げる。
「では、二人とも。くれぐれもキラに無理をさせないようにね」
視線をレイ達に移動して、ラウはそう言う。
「もちろんです」
それを確認してから、彼は通路へと出る。ドアが閉まる瞬間、シンがキラの椅子に手を置くのが見えた。
「さて……忙しくなりそうだね」
無事に終わればいいが。そう考えながらラウは自分の部屋へと戻る。
「待ち望んでいたものが届いたよ」
そして、そこで待っていた二人に向かってこう告げた。