愛しき花
48
データーカードを手にシンが部屋に戻れば、キラとレイが二人で難しい表情を作っていた。
「戻ってたんだ」
ともかく、とシンはレイに声をかける。
「お前も、な」
そうすれば、すぐに彼は苦笑を返してきた。
「戻ってきたばかりで申し訳ないが、ラウのところへ行ってきてくれないか?」
その表情のまま、レイはこういう。
「クルーゼ隊長のところに?」
何故、と思いながらシンは聞き返す。
「ギナ様からメール」
しかし、キラのこの一言であっさりと理解できた。
「端末で呼び出せばいいのに」
キラであれば、彼も文句は言わないだろう。何よりも、だ。
「レイはやり方、知っているだろ」
そう言いながら、彼の顔を見つめる。
「そうなの?」
初耳だったのだろうか。キラは驚いたように彼へと視線を向けた。
「誰が聞いているかわからないだろう」
だが、レイの返事は予想外のものだった。
「レイ?」
「この艦に乗り込んでいる人間を信用していないわけではない。ただ、端末を使うとログが残るからな」
その結果、知られたくない相手に知られることになる。それがいやだ。
「プラントにもブルーコスモス関係者がいるからな」
そう言われれば納得しないわけにはいかない。
「わかったよ」
行ってくる、とシンは言い返す。しかし、とポケットからカードを取り出す。
「キラ。頼まれてたもん」
そのまま彼女の方へと放る。
「ありがとう」
ふわりと微笑むと、キラはそれへと手を伸ばした。その表情を見られただけでもいいか、とシンは思う。
そのまま体の向きを変えると部屋の外に出た。
問題は、ラウの時間が空いているかかもしれない。
「キラのためなら、強引に空けそうだけどな」
しかも、今回はギナからのメールという、ある意味最優先事項がかかわっているし。そう考えながら、隣のドアの前へと移動をする。
そのまま、壁の端末へと手を伸ばす。
「シンです。今、よろしいでしょうか」
中にいてくれることを期待してそう呼びかけた。
『入りたまえ』
どうやら自分の話を聞く余裕はあるようだ。その事実に安堵していいのかどうかわからないまま、シンは室内へと足を踏み入れる。
そうすれば、アデスとミゲルの姿も確認できた。
ひょっとしてまずいタイミングだったのではないか。シンは内心焦る。
「何かあったのかな?」
しかし、ラウはいつもの口調でこう問いかけてきた。どうやら、二人の話よりもこちらを優先するつもりらしい。
あるいは、早々に終わらせてまじめな話をした方がいいと考えているのか。
そうあって欲しいな、と心の中で呟いていた。
だからと言って、このまま戻るわけにもいかない。
「キラ宛にギナ様からメールが届いたのですが」
こういった瞬間、彼は立ち上がる。
「すぐに行こう」
言葉ともにラウはデスクを乗り越えてきた。
彼のそんな仕草に、ギナからのメールを待ち望んでいたのか、とシンは思う。
「待っているように」
アデス達にそう告げるラウの声を合図に、シンはぎくしゃくと行動を開始した。