愛しき花

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 データーカードを手にシンが部屋に戻れば、キラとレイが二人で難しい表情を作っていた。
「戻ってたんだ」
 ともかく、とシンはレイに声をかける。
「お前も、な」
 そうすれば、すぐに彼は苦笑を返してきた。
「戻ってきたばかりで申し訳ないが、ラウのところへ行ってきてくれないか?」
 その表情のまま、レイはこういう。
「クルーゼ隊長のところに?」
 何故、と思いながらシンは聞き返す。
「ギナ様からメール」
 しかし、キラのこの一言であっさりと理解できた。
「端末で呼び出せばいいのに」
 キラであれば、彼も文句は言わないだろう。何よりも、だ。
「レイはやり方、知っているだろ」
 そう言いながら、彼の顔を見つめる。
「そうなの?」
 初耳だったのだろうか。キラは驚いたように彼へと視線を向けた。
「誰が聞いているかわからないだろう」
 だが、レイの返事は予想外のものだった。
「レイ?」
「この艦に乗り込んでいる人間を信用していないわけではない。ただ、端末を使うとログが残るからな」
 その結果、知られたくない相手に知られることになる。それがいやだ。
「プラントにもブルーコスモス関係者がいるからな」
 そう言われれば納得しないわけにはいかない。
「わかったよ」
 行ってくる、とシンは言い返す。しかし、とポケットからカードを取り出す。
「キラ。頼まれてたもん」
 そのまま彼女の方へと放る。
「ありがとう」
 ふわりと微笑むと、キラはそれへと手を伸ばした。その表情を見られただけでもいいか、とシンは思う。
 そのまま体の向きを変えると部屋の外に出た。
 問題は、ラウの時間が空いているかかもしれない。
「キラのためなら、強引に空けそうだけどな」
 しかも、今回はギナからのメールという、ある意味最優先事項がかかわっているし。そう考えながら、隣のドアの前へと移動をする。
 そのまま、壁の端末へと手を伸ばす。
「シンです。今、よろしいでしょうか」
 中にいてくれることを期待してそう呼びかけた。
『入りたまえ』
 どうやら自分の話を聞く余裕はあるようだ。その事実に安堵していいのかどうかわからないまま、シンは室内へと足を踏み入れる。
 そうすれば、アデスとミゲルの姿も確認できた。
 ひょっとしてまずいタイミングだったのではないか。シンは内心焦る。
「何かあったのかな?」
 しかし、ラウはいつもの口調でこう問いかけてきた。どうやら、二人の話よりもこちらを優先するつもりらしい。
 あるいは、早々に終わらせてまじめな話をした方がいいと考えているのか。
 そうあって欲しいな、と心の中で呟いていた。
 だからと言って、このまま戻るわけにもいかない。
「キラ宛にギナ様からメールが届いたのですが」
 こういった瞬間、彼は立ち上がる。
「すぐに行こう」
 言葉ともにラウはデスクを乗り越えてきた。
 彼のそんな仕草に、ギナからのメールを待ち望んでいたのか、とシンは思う。
「待っているように」
 アデス達にそう告げるラウの声を合図に、シンはぎくしゃくと行動を開始した。

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最遊釈厄伝