愛しき花
42
反射的にキーボードを操作する。しかし、一瞬、判断が遅れたようだ。
目の前のモニターには大きくLOSSの文字が浮かび上がる。
「……また、キラの勝ちか」
これで何敗目だっけ、とシンがレイに確認した。
「お前の三連敗だ」
彼は即座にこう言い返してくる。
「キラ、強すぎ」
ゲームに関しては彼女に勝てるものがいるのだろうか。いくら彼女が作ったものだとしても、だ。
「……普通だよ。カガリとやるとだいたい引き分けだし」
それにキラはこう反論してくる。
「カガリさんは規格外だし」
シンは思わずこう言い返してしまう。
「あの人ぐらいだよ。同じ年代のコーディネイターを一発でのせるナチュラルなんて」
さらにこう付け加えた。
「そうかな?」
しかし、キラには彼女の行動は当然すぎるらしい。意味がわからないと言うように首をかしげて見せた。
「そうです。俺でもあの人にはかないません」
レイも力一杯同意をしてみせる。と言うことは自分だけがそう感じているわけではないのだろう。
「やっぱり、カナードさんの教育があるからかなぁ」
でも、とキラは続ける。
「ラウさんもムウさんも『そのくらいできて当然』だったし」
その言葉にどう反応を返せばいいのか。しかも、聞き覚えのない名前まで出てくるし、と思ったのはシンだけらしい。
「ラウもムウも何を考えているのか」
レイがあきれたようにこう呟いている。
「……ムウさんって、誰?」
思わずこう問いかけてしまう。
「あれ? シンはムウさんのことをしらなかったっけ?」
キラがこう言って首をかしげた。
「残念だけど」
シンはそう言い返す。
「ムウさんはラウさんのお兄さんだよ。ナチュラルだけど」
キラがそう言って笑った。
「ある意味、カガリさんの同類だ」
ムウとラウがけんかをすれば、それこそ大変だった。レイはレイでため息とともにこう告げる。
「でも、そのくらいできないと困るって言ってたよ、昔」
周りがコーディネイターばかりだから、とキラは言った。
「訓練次第でなんとでもなるんだって」
さらに彼女はそう付け加える。
「ナチュラルもコーディネイターも変わりはないって。ただ、コーディネイターの方が学習した内容を受け入れる器が大きいだけだからって」
それがムウの持論らしい。こう言える彼がすごいな、と思う。
「いいな、そう言う大人」
シンがこう呟けば、二人は複雑な表情を作った。
「他のことではだらしないけど」
「ある意味、人間失格レベルです」
しかし、二人はすぐにこう言ってくる。
「……どういう人なんだよ」
訳がわからない、とシンは呟く。
「こればかりは、実際に会ってみないとわからないと思うよ」
「そうだな。実物を見てもらわないと、口で説明するのは無理だ」
二人が口をそろえてこう言ってくる。
「……何か、よくわかんないけど……会えるのを楽しみにしておくか」
とりあえず、とシンはこう言うにとどめておいた。