愛しき花

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 いくら捜索してもラクスの行方はつかめない。
「他の誰かに保護された、と見るべきか?」
 アスランはそう呟く。
『他の誰かとは、誰だ?』
 イザークがすぐに聞き返してくる。
「オーブならばいいが……状況から判断をして、あの地球軍の新造艦の可能性も否定できないだろうな」
 ため息とともにアスランはそう告げた。
『確かに、な』
 イザークも同じ可能性に気づいていたのだろう。渋々ながら同意の言葉を口にする。
「ともかく、一度戻って隊長の指示を仰ぐしかないな」
 バッテリーの残量も心許ないし、とアスランはため息をつく。
『不本意だが、仕方があるまい』
 彼もため息とともに同意をしてくれた。
 そのときだ。センサーに不審な反応が出る。
『アスラン……』
「あぁ、わかっている」
 この状況で戦闘は辛い。しかし、黙ってやられるのもしゃくだ。そう考えていたときだ。
『アスラン・ザラだな』
 通信機からいきなり声が響いてくる。その声に聞き覚えがあるような気がするのは錯覚ではないだろう。
「ロンド・ギナ・サハク様?」
 確か、と思いながら呼びかける。
『覚えておったか』
 満足そうな声が返ってきた。
『アスラン……サハクというと……』
「あぁ。オーブの五氏族の一つだ。ロンド・ミナ様とお二人でサハクの首長を努めておいでだ」
 しかも、悪い意味で厄介な方だ。そう言いたくなるのをアスランは必死にこらえる。
「それで、何のご用でしょうか」
 わざわざこんなところで声をかけてきたのだ。何か理由があるに決まっている。
『二つほどの。キラとお主らの隊長に、あるファイルを届けて欲しいのよ』
 できるだけ内密に、と彼は続けた。
「わかりました」
 そのくらいならばかまわないだろう。アスランはそう判断をして頷く。必要なら、キラには内容を確認すればいいだけだ。
『それと』
 ギナがさらに言葉を綴る。
『ラクス・クラインはとりあえず無事だ』
『何!』
 彼の言葉にイザークが真っ先に反応を返す。
「さらっと爆弾発言をしないでください」
 ため息混じりにアスランはこう言う。
「それで、ラクスはどこに?」
『地球軍の船よ。カガリと一緒におる』
 その方が都合がよかったから、とギナは笑った。
「聞かない方がよかったか……」
 別の意味で怖い、とアスランは言う。
「敵ながら、相手がかわいそうになってきたぞ、俺は」
『アスラン』
 イザークが非難するような声をかけてくる。
「そうは言うが、お前は月での惨劇を知らないから」
 あの後、事態を表沙汰にしないためにどれだけ苦労したか。アスランはそう呟く。
『それもよい思い出であろう?』
 ギナはそう言って笑いを漏らす。
『ともかく、私はこれから根回しに動く。詳しいことは、お前たちの隊長に聞け』
 言葉とともにファイルが送信されてきた。つまり、この中にそれについての説明が書かれていると言うことか。
『では、またの』
 そう言うとギナの機体の反応が消える。ブリッツと同じような機能が彼の期待にもついているのだろうか。
「ともかく、戻るか」
 アスランはため息混じりにそう告げる。
『それが一番話が早そうだな』
 ため息混じりにイザークが言葉を返してきた。
 それを確認して、アスランはイージスを変形させる。そして、デュエルとともにヴェサリウスへと向かった。

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最遊釈厄伝