愛しき花

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「ここであなたにお会いできるとは思いませんでしたわ、カガリ」
 にこやかにこう声をかけられる。
「それはこっちのセリフだ、ラクス」
 全く、とカガリはため息をつく。
「お前もいるから、あいつをプラントに行かせたのに……」
 さらにそう付け加える。
「申し訳ありません。わたくしもここに来ることになるとは思いませんでしたので」
 すぐに戻れるはずだったのだ。ラクスはそう言い返してくる。
「ですが、わたくし達の存在が地球軍の方々には気に入らなかったようですの」
 それとも、自分達の目的がなのだろうか。ラクスはそう言いながら首をかしげてみせる。
 そんな仕草をすると、本当に彼女はかわいらしい。見た目だけならばキラと同レベルではないだろうか。
 しかし、中身は違う。
 見た目には反して彼女は政治家としても為政者としも侮ってはいけない人間だ。なめてかかると足下をすくわれる。
 それは友人である自分相手でも例外ではない。
 しかし、今は自分達に向けてそれは発揮されないだろう。
「それにしても、これはザフトの船ではなかったのですね」
 ほわほわとつかみ所のない口調で彼女はそう言ってくる。
「……嬢ちゃんの目的は何だったんだ?」
 とりあえず、と言うようにムウが口を挟んできた。
「ユニウスセブンの追悼です」
 ラクスはさらりと言葉を返す。
「あちらにもそう説明したのですが、納得していただけなくて」
 まさか、それで民間の船に攻撃を加えてくるとは思わなかった。彼女はそう続ける。
「わたくしを逃がしてくれた後の皆様は、ご無事なのでしょうか」
 ご存じありませんか、と逆に彼女はムウへと問いかけた。
「残念ながら、この艦は味方との連絡が取れていないからな」
 それにムウはあっさりとこう言い返す。
「しかし……何でお嬢ちゃんが慰霊団の一員に?」
 さらに彼はこう聞いてくる。間違いなく、これはラクスに対する尋問だ。それをムウ一人で、しかも、自分同席でおこなっているのは、彼女に対する気遣いのためだろう。
「わたくしが《ザフトの歌姫》と呼ばれる存在だからです」
 そして、父親が最高評議会議長だからだ。
 ラクスが胸を張ってこういった瞬間、カガリだけではなくムウも頭を抱えてしまった。
「どうかしましたの?」
 意味がわからないと言うようにラクスが問いかけてくる。
「黙っててくれればごまかしようがあったものを」
 ムウが歯の隙間からはき出すように告げた。
「聞いちまった以上、報告しないわけにいかないしな」
 政治的に使われるのは目に見えているか、と彼は続ける。
「聞かなければ、適当なところで解放してやれたんだが」
 難しくなった、と言われてラクスは意味がわからないと言うように首をかしげて見せた。
 いや、頭の中では何かよからぬことを考えているに決まっている。カガリはそう断言した。しかも、間違いなく自分も巻き込まれるのだろう。
 どうして彼女を拾ってきたのか。カナードにそう問いかけたくなる。
「ともかく、二人ともここでおとなしくしていてくれ。カガリ嬢ちゃんはともかく、ラクス嬢ちゃんは最悪、どこかに幽閉されかねないからな」
 ここには怖いおねーさんがいるから、とムウは冗談めかして付け加えた。
「とりあえず、そうさせていただきますわ」
 自分があきるまでは、と付け加えられたような気がするのは錯覚だろうか。
「……無事にキラと再会できるのか、私は」
 思わず弱音を漏らしてしまうカガリだった。

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最遊釈厄伝