愛しき花

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 普段はどこかふわふわとしているのに、キーボードをたたき出すと雰囲気が一変する。
「……ある意味、詐欺だよな」
 これは、とシンは呟く。
「どっちかしか知らない人間から見れば、そうとしか言えないだろ」
「だが、それもキラさんの魅力だろう?」
 それにレイがこう言い返してくる。
「確かにそうなんだけどな」
 でも、とシンはキラへと視線を移動した。
「俺としてはいつものキラさんの方が好きだな」
 こっちのキラは少し近寄りがたい。シンはため息とともに呟く。
「なんて言うか、こうしていると本気で自分が年下だって思い知らされるし」
 それがおもしろくない、と言外に付け加えた。
「そう言っても、俺たちがキラさんより年下なのは事実だからな」
 こればかりはどうしようもない、と言うのは間違いなく正論なのだろう。それでも、どこか納得できない。
「それに……これはキラさんにしか頼めない仕事だとラウも言っていたし」
 それでなければ自分が手を出すのだが、とレイは続けた。
「キラさんレベルのプログラマーは少ないからな」
 プラントに戻ればいない訳ではない。だが、今はその時間がないのだ。だからラウも彼女に依頼したのだろう。
「それはわかっているんだけど……キラ、集中すると飯もくわねぇじゃん」
「あぁ、そちらの心配もあったな」
 どうやら学校生活でもさんざん経験させられたのだろう、とその口調からも伝わってくる。
「こう言うとき、カガリさんがいてくれればと思うよ」
 彼女はそういうことが得意だった。と言うよりも、ただ強引なだけだろう。
 しかし、自分はそこまでキラに対して強引なまねはできない。何よりも問題なのは、これが急ぎの作業と言うことだ。
「いざとなれば、つまめるものを用意してもらうしかないか」
 サンドイッチのような、とシンは呟く。
「そうだな」
 脇に差し出せば無意識でもつまんでくれるから、とレイも頷く。
「それにしても、何のプログラムなんだ?」
 キラが作っているのは、とシンは言う。
「何でも……サハクの方々と内密に話をするための通信ソフトとか言っていたな、ラウは」
 何をする気なのかはわからないが、とレイは言い返してくる。
「まぁ、それならキラに危険はないか」
 他の人間はどうなのかはわからない。だが、少なくともサハクの人間が彼女に危害を加えないことは十二分に予想ができた。
「サハクの双子は、キラとカガリさんには甘いし」
 女の子だから、と言うだけではなさそうだが。それでも、キラが無事ならばそれでいいかと思ってしまう自分に苦笑を禁じ得ない。
「苦労をするのは、まずラウとアスラン達だし」
 自分達の上に降ってくるとすればその次ぐらいだろう。
 そのときは甘んじて受け止めるとして、だ。当面はキラのフォローだけをすればいいのではないか。レイはそう言ってくる。
「それしかないだろうな」
 シンもそう言って頷く。
 そのときだ。キラの手が何かを探すかのように彷徨い始める。しかし、彼女の瞳は一瞬たりともモニターから離れない。
「だから、飲み物を探すときには視線をちゃんと向けろって!」
 言葉とともにシンは立ち上がる。そして、そのまま彼女の手に今まで放置されていたドリンクボトルを握らせた。
 果たして彼女じゃその事実に気づいているのだろうか。
 気づいていないだろうな、とシンは思う。
「全く」
 それもキラらしいけど、とシンは苦笑とともに付け加える。
「現実に戻るまで仕方がないな」
 レイも苦笑を浮かべると言葉を返してきた。
「そうだな」
 問題は、それがいつになるかだ。
「今日中に終わってくれることを願うしかないか」
 こう言いながらも、シンはドアの方へと移動する。
「厨房に三人分頼んでくる」
「了解。それまでは俺が責任を持つ」
 レイの言葉にうなずき返すと、シンは部屋を後にした。

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最遊釈厄伝