愛しき花

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 目の前に破壊された船が漂っている。
「これか?」
 眉根を寄せながらアスランはそう呟く。
『船名はそうだな』
 イザークは言葉とともに機体を移動させている。
「生存者がいるようには見えないな」
 アスランもまた、イージスを慎重に移動させていく。その間にも周囲への警戒は怠らない。どこから地球軍が出てくるか、わからないからだ。
『とりあえず、中を確認してくる』
 イザークはデュエルを船体に固定すると、こう言ってくる。
「わかった。俺はこのまま周囲を警戒する」
 彼が内部の捜索をするならば、当然、これが自分の役目だ。そう判断をしてアスランは言い返す。
『頼む』
 ラクスの存在がかかっているからか。やはり彼の態度から角が取れている。
 もっとも、とアスランは口元に苦い笑みを浮かべた。こんなところで反発されてもいろいろと困るが。
 そんなことを考えながら、アスランはセンサーの感度を最高レベルまで上げた。
「特に近くに敵の反応はないな」
 いいのか悪いのかはわからないが、と口の中だけで呟く。
 だが、それよりも優先すべきなのはラクスの生死の確認だ。
「無事でいてくれればいいが」
 いろいろな意味で、彼女を失うのはまずい。特にカガリがぶち切れてくれそうだ。
 何よりも、カガリが彼女にキラのことを頼んでいる可能性もある。自分達がそばにいられない以上、キラを守ってくれる存在は一人でも多い方がいい。
 そう考えてしまう自分に、アスランは苦笑を深めた。
 自分達がどれだけキラを中心に動いているのか。それを改めて突きつけられたような気がしたのだ。
 だが、自分達にとって彼女の存在が救いのようなものであったことも事実。だからこそ大切にしたいだけだとアスランは心の中で呟く。
「キラには笑っていて欲しい」
 いつでも、と付け加える。そう考えているのは自分だけではない。ヴェサリウスの中だけでもラウやシン、それにレイもそう考えているはずだ。
 ラウはともかく、残りの二人は少々鬱陶しい。しかし、今はキラのそばに付いていられる彼らの存在は必要なのだろう。
 だが、とアスランは呟く。
「それと、キラの隣に立つ権利は別物だ」
 自分が認められない相手をキラのそばに置いてたまるか。そう続けた。
「まぁ、今だけだからな」
 あの二人がキラのそばにくっついていられるのも、と口にする。
『アスラン』
 通信機からイザークの声が響いてきた。
「どうだ?」
 それにアスランはこう聞き返す。
『生存者はいない』
 固い声が耳に届いた。それはある意味、予想していたことではある。だが、現実として突きつけられれば衝撃がないわけではない。
「……そうか」
 返す言葉もやはり堅いものになる。
「ラクスも、か?」
 イザークにとって辛いかもしれないが、これだけは確認しないといけないだろう。
『いや。中に彼女の姿はない』
 どこかほっとしたような響きが声に含まれているような気がするのは、アスランの錯覚ではないはずだ。
『それと、救命ポッドが射出されている』
「と言うことは、彼女は脱出したと言うことか」
 ならば、生きている可能性が高い。
『だろうな』
「方向がわかれば探しに行けるが……」
 だが、勝手に行動するわけにはいかないだろう。
『まずは、隊長の判断を仰がなければな』
 そのくらいの時間は彼女にも我慢してもらおう。イザークはそう言った。それは街はいなく、自分に言い聞かせているのだろう。
「とりあえず、合流するまでの間、少しでも彼女の行方を捜すか」
 それにアスランはこう言い返した。

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最遊釈厄伝