愛しき花
34
ラウの執務室にはすでにイザークの姿があった。しかし、その表情は厳しい。
「……何かあったのですか?」
アスランはそう問いかける。
「ユニウスセブン慰霊団との連絡が途絶えた。先ほどまで救援要請が届いていたのだがね」
だから二人を呼んだのだ。ラウはそう言う。
「アスランの機体であれば、高速移動が可能だろう。イザークを運んでもらおうと考えていたのだが……」
無駄になるかもしれない、と彼は言外に告げる。その理由は確認しなくてもわかった。
「それでも、ラクス嬢を探さないわけにはいかないでしょう」
イザークは淡々とした口調でそう告げる。
「そうですね。自分であれば、最悪の状況になる前にラクスを脱出させています。彼らが同じ判断をしなかったとは言い切れません」
アスランもまた、こう告げた。
「なるほど。私でも同じ判断をするだろうね」
ラウもそう言って頷く。
「ならば、やはり君たちに捜索に行ってもらおう」
できるだけ早く、と彼は続ける。
「もちろん、我々もすぐに追いかける」
だから無理はしないように。ラウの言葉にアスラン達は小さく頷いてみせる。
「……戦闘になる可能性があると?」
「あの船を襲ったのが地球軍ならば、まだそばにいるだろうね」
ラクスが目的であればなおさらだ。彼女の身柄を確保するまでその場でとどまるだろう。ラウはそう言った。
「わかりました」
イザークがそう言葉を返す。
「しかし、いいのか?」
彼は視線を向けるとこう問いかけてくる。
「ラクスとも顔見知りだし、カガリと仲がいいからな、彼女は」
アスランは苦笑とともにさらに言葉を重ねた。
「見捨てたと知られれば、何を言われるかわからない」
さらにそう付け加える。
「そうか」
アスランの言葉に彼はかすかに唇の端を持ち上げた。
「ならば、遠慮なくつきあってもらおう」
彼はそう言う。
「もちろんだ。お前こそ、今回だけはけんか腰にならないでくれ」
アスランはそう言い返す。
「ラクス嬢のためだからな」
今回だけは我慢する、とイザークは口にする。
「話がまとまったところで、出撃の準備をしたまえ」
ラウがこう言った。
「了解しました」
反射的に居住まいを正すと、ラウに向かって敬礼をする。それに彼は小さく頷いて見せた。
「気をつけて行ってきたまえ」
彼のこの言葉を合図に、二人は同時にきびすを返す。そして、部屋の外へと出て行った。
「こうなると、キラが自分のことで手一杯なのはいいことかもしれないね」
二人を見送ると同時に、ラウはそう呟く。
「それにしてもずいぶんと女の子らしくなったものだ」
昔のことを思い出しながら、彼はそう付け加える。
「だが、まだ言葉遣いは直っていないようだね。それでも、あの男の口調が移らなくてよかったが」
だが、重要なのはこれからだろう。
「ラクス様がご無事だといいが」
自分達の計画にとって彼女の存在は必要なのだ。だから、生きていてもらわなければいけない。
「ともかく、指示を出さないといけないね」
自分が、と苦笑を浮かべる。
「あちらと遭遇しなければいいが」
そう付け加えながら、彼もまた、部屋を出るために行動を開始した。