愛しき花
31
まんまと出し抜かれてしまったからか。控え室の雰囲気は暗い。
「えっと……アスラン」
しかし、ここで役目を果たさないわけにもいかないだろう。そう考えてシンは声をかける。
「何だ?」
すぐにアスランは言葉を返してきた。
「キラに何かあったのか?」
だが、その後に続いたセリフに苦笑を浮かべるしかない。
「とりあえず、部屋にいるけど……今は別のことだってば」
その表情のまま、こう言い返す。
「クルーゼ隊長が呼んでいるんだけど」
何でも、内密に話したいことがあるらしい。シンはそう付け加えた。
「だから、艦内放送ではなくお前が来たのか?」
「そういうことデス」
ため息混じりにそう言い返せば、アスランが苦笑を浮かべるのが見える。
「悪かったな。出撃をしたから、キラが不安になっているかと思っただけだ」
言葉とともに彼は肩をすくめて見せた。
「キラは今、別のことでパニックになってるみたいだけど」
シンは苦笑とともにそう言い返す。
「何だ?」
「詳しいことは、今、レイが聞きに行っている」
自分も行こうとは思った。しかし、レイに止められたのだ。
「何でお前は行かなかったんだ?」
その理由が気になったのだろう。アスランはこう問いかけてくる。
「女心に疎いから、と言われた」
何か『キラの悩みは女性心理によるものだから』と言うことらしい。
「なるほど」
とたんにアスランは苦笑を浮かべる。
「そういうことなら、俺たちは下手に口を出さない方がいいな」
以前、それでカガリに殴られたから。アスランは苦笑を深めるとそう言った。
「……あの人ならそうでしょうね」
シンもため息とともに言葉を返す。
「ちょっとしたことでも拳が飛んでくる」
ヤマト家にいた頃に何度殴られたことか。それも、些細な理由でだ。
「あきらめろ。それでも、あいつも女性だ」
キラがおとなしい分、カガリが暴れることでバランスを取っていたのではないか。アスランはそう言う。
「あの二人は、カガリが十歳の時に本土に戻るまで一緒に育ったからな」
キラがコーディネイターでカガリがナチュラルだと言うことも関係しているのかもしれない。そう言われれば納得できる。
「いくらオーブでも、周りにはナチュラルの方が多いもんな」
相手が悪かったとしても、けんかなどをすればコーディネイターの方が怒られるのだ。そう考えれば、キラがインドア派になったのも仕方がないのではないか。
「お前もそれなりに苦労してきたようだな」
とりあえず、行くか。アスランはそう言ってくる。
「……家族がいたから」
だから、我慢できた。それに、キラとも知り合えたし、とシンは付け加える。
「女の子の盾になるのは男として当然のことだったし」
床を蹴りながらさらにそう告げた。
「なるほど。カガリがまだ、キラのそばにいるのを許しているわけだ」
アスランが納得したようにこう言ってくる。
「別に。誰の許可もいらないと思うけど?」
自分がキラのそばにいたいのだ。だから、とシンは言い返す。
「……まぁ、そういうことにしておいてやろう」
彼を追いかけてきたアスランが意味ありげに笑う。それがどうしてなのか。後でキラに聞けばわかるのか、とシンは首をひねった。