愛しき花
30
ずいぶんと派手にやったな、とカガリは思う。
「まぁ、確かにカナードさんを出撃させないで逃げ出すにはそのくらいしないとだめか」
しかし、と彼女は心の中で呟く。地球軍だけの独断であんなことができるのだろうか。
だが、ヘリオポリスにこれ以上損害を与えないためにはこれが最善だったような気もする。
ここまで考えたとき、まさかという思いがカガリの中に浮かび上がってきた。
「あの人がかかわっているわけじゃないよな?」
脳裏に浮かんだのは、血縁関係はないがものすごく親しい大人の顔だ。
そのうちの一人は自分の理想だと言っていい。しかし、彼女ならばこんな方法はとらないだろう。
と言うことは、可能性があるのはその片割れと言うことになる。
「あの人が動いているなら、ものすごく厄介なことになるかも」
もっとも、とカガリは続けた。
「キラと私に危害が及ぶことはないはず、だな」
少なくとも、命にかかわるようなことは、だ。それに、彼がこのような選択をしたというのにはきっと理由があるのだろう。それが片付けば、きっと迎えに来てくれるに決まっている。
「ならば、いいか」
苦労するのは自分ではないし、とカガリは笑う。
「閉じ込められていることだけが不満だが、今しばらく我慢するさ」
さて、と呟くと、彼女は筋トレを始める。
「居住区が1Gなのはこの艦のいいところだな。普通にトレーニングができる」
後でカナードに軽い組み手につきあってもらおう。彼女はそう付け加えていた。
キラはスカートのウエストあたりを確認するように触れる。
「……やっぱり、太ったかも」
そう呟くと、肩を落とす。
「最近、運動していなかったからだよね、やっぱり」
しかも、だ。
ここの食事はどうしてもカロリーが高くなる。量を減らしてもらっていてもカロリーオーバーになるのだ。
しかも、減らそうとすれば周囲で騒ぎ立ててくれる人間がいる。彼らのせいで食事の後はいつも、胃が痛い思いをしているのだ。
少しぐらい、胃の大きさの差を考えて欲しい。
そう言っても耳を貸してくれそうにないのはどうしてなのか。
どちらにしろ、食事の量を今以上減らすのは難しいだろう。ならば、他の方法を探すしかない。
せめて、居住区だけでももう少し重力がかかっていれば、部屋の中で運動もできるのに、とため息をつく。
しかし、それに関しては望みすぎだろう。
「頼んだら、運動させてもらえるかな?」
そう呟く。
「戦艦だから、訓練する場所ぐらいあるよね」
問題は、自分が使っていいかどうか、だ。
そこが使えないとしても、どこかで運動できる場所を教えてもらえるのではないか。
「とりあえず、相談してみよう」
まずはシンかな? とキラは首をかしげる。彼に言えば、きっと、ラウの耳に入るだろう。そうすれば、適切な方法を教えてくれるのではないか。
「しかし、これは盲点だったなぁ」
太るなんて、とキラはまたため息をつく。
「カガリなら、もっと早く気がついたのかもしれないけど」
自分は運動するよりキーボードを叩いている方が楽しい人間だから、と彼女は続けた。
「でも、さすがに体型が変わるのはね」
女として認めたくないものがある。
「本当に、どうしようかな」
相談する前に自分で何とかできないかどうか。努力する必要があるだろう。
そう考えて、何か使えるものがないかどうか、周囲を見回す。
「あれが使えるかなぁ」
部屋の隅にあるものを見つけて、キラはそう呟く。
そのままそちらの方向へと移動していった。