愛しき花

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 事態が動いたのは、本当に急だった。
「……デッキを爆破しただと!」
 それも、自分達が破壊したような点検用のそれではない。宇宙船が発着するためのそれだ。
 あれが破壊されれば、しばらく、ヘリオポリスに補給船が寄港できなくなる。住民に支障が出るのは目に見ているではないか。
「何を考えている……」
 それとも、何も考えていないのか。ラウはそう呟いた。
「ともかく、地球軍の新造船が出てくるぞ! 見逃すな」
 ヘリオポリスの損害は今は考えるな、と指示を出す。
「ただし、ヘリオポリスにはこれ以上被害を出さないように配慮しろ」
 さらにラウはこう付け加えた。
「必要があれば、私も出撃る」
 この言葉に周囲の者達は驚きを隠さない。
「隊長……」
「あの艦にはオーブの民間人も乗っているのだよ。短時間で掌握することが必要ではないかな?」
 もっとも、彼らだけでそれが可能であれば自分が出撃することはない。
「さて、無事に終わればいいが」
 まだ何かあるような気がする。
 だが、それが何であるのかはわからない。しかし、覚えのある気配を感じているのは事実だ。きっと彼が何かを画策しているのだろう。
「……今は任せるべきだろうな」
 カナードだけではなく彼もいるのであればカガリの安全は確保できるはずだ。
 後は、いかに安全に彼らを取り戻すかだろう。
 どちらにしろ、自分が出撃するのは最後だ。ラウは自分にそう言い聞かせていた。

 だが、相手の方がさらに一枚上だったと言っていい。
『デコイだと!』
 ミゲルがそう叫んでいるのがわかった。
「まさか、戦艦一隻をおとりに使うとは……」
 確かにあそこまで破壊されていれば、どのみち廃棄されていただろう。しかし、それを偽装しておとりに使うとは、いったい誰のアイデアなのか。
『と言うことは、あの爆発も陽動だった可能性はありますね』
 ニコルがこう言ってくる。
「そうだな」
 敵の中にかなり柔軟な考えをする相手がいると言うことか。それはそれで厄介だろう。アスランもそう考える。
『ともかく、隊長に判断を仰ごう』
 イザークが悔しさを隠さずにそう言った。
『あっちなら目標を補足できているかもしれないか』
 ディアッカがそんな彼をなだめるかのように言葉を綴る。
『あちらだけに任せておく訳にいかないだろう。俺たちもそれぞれ索敵に出るぞ』
 頭が冷えたのだろう。ミゲルが指示を出してくる。
『ただし、バッテリーの残量には気を付けろよ。お前らの機体で長時間運用は初めてだからな』
 さらに彼はこう注意してきた。
「わかっている」
 確かに、慎重にした方がいいだろう。
『それと、不具合が出たらすぐに帰還しろ。いいな』
 今は確実性を優先しろ。さらに彼はそう言う。
『わかっています』
『少しは信用しろって』
 ニコルとディアッカが苦笑混じりに言葉を返しているのが聞こえた。
「こんなところで死ぬつもりはないからな」
 少なくともキラが本国に向かうまでは、とアスランは心の中で付け加える。
『確かに。待っている人がいる以上、死ぬわけにはいかないな』
 イザークも同意をするように言葉を口にした。
「何なら、二人組で動くか? 効率は悪くなるが、安全性は高くなる」
『そうですね。ミゲルは一人でも大丈夫でしょうから』
 アスランの言葉にニコルもすぐに同意してくる。
『なら、俺とディアッカで行く。お前たちが一緒に行動しろ』
 案の上のセリフをイザークは言い返して来た。
「了解。かまわないな?」
 今更ながら、と思いつつミゲルに確認を取る。
『それが無難だろうな』
 ミゲルがすぐに許可を出す。
「では、そういうことだな」
 アスランの言葉を合図に、彼らは行動を開始した。

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