愛しき花
28
パイロット控え室内がいきなり慌ただしくなる。
「とうとうしびれを切らしたぞ」
ノーマルスーツを身にまといながらミゲルがこう言ってくる。
「……あれは出てくると思うか?」
そんな彼に向かってアスランは問いかけた。
「どうだろうな。隊長は『出てくると思っておけ』と言っていたが」
地球軍のことだ。人質の命を盾に協力させるという可能性はある。ミゲルはそう言い返してきた。
「そうだな」
カガリの命を盾にされれば頷かずにはいられないだろう。
しかし、とアスランは心の中で呟く。
あのカガリがおとなしく盾にされているだろうか。最悪、抵抗をしてけがをしている可能性がある。もっとも、人質としての価値があるから殺されることはないだろうが。
「無事ならばいいが」
思わずそう口にしてしまう。
「どうした?」
ミゲルが即座に問いかけてくる。
「人質のことだ」
隠すことではないだろう。そう考えて言葉を返す。
「あぁ……そうだったな」
誰のことを指しているのかわかったのだろう。彼は微妙な表情を作った。
「まぁ、そのときは俺たちが何とかするさ」
敵の動きを止めるから、アスランは中に侵入して人質を解放すればいい。そう彼は続けた。
「そうだな」
一人では辛いかもしれない。だが、途中でカナードと合流できれば可能だろう。
そうでなかったとしても、後一人か二人、フォローしてくれれば十分だ。
「隊長には事前に話を通しておかないといけないか」
それとイザーク達にもだ。
「あいつらには出撃の時でいいだろう。隊長には……俺から話しておく」
その方が確実だろう。ミゲルはそう言ってくる。
「あぁ。頼む」
自分よりも冷静に伝えてくれるだろう。アスランはそう判断をする。
「あいつも、そう簡単に言うなりにならないだろうしな」
自分に言い聞かせるようにアスランはこう呟いていた。
「さて、どうしたものかの」
ギナはそう呟く。
「カガリ達のことがなければことは簡単なのだが」
カナードに適当に出撃した後、あれごと戻ってくるように伝えればいいのだ。
しかし、連中がカガリまでも出撃させるはずがない。カナードへの人質として艦内にとどめるはずだ。
それを無視できるかどうか。考えるまでもないだろう。彼女の安全は最優先で確保されなければいけない。
「ラウ達に捕縛させるか……それとも、このまま、一度逃すかだな」
もちろん、その場合、監視の目はつけることになる。
その手はずを整えることは難しくないだろう。ギナがその気になれば、一時間以内に全ての手はずが整っているはずだ。
だが、下手に動けばセイランにばれる可能性がある。
あちらがブルーコスモスから手を回したらどうなるか。
「セイラン的には、キラよりもカガリの方が利用価値があるからの」
既成事実を作ってしまえばいい。そんなことを言い出しかねない連中なのだ。
そんな女性の意思を無視した好意を認めるわけにはいかない。そう考えるのは、ミナの存在があるからだろう
「だが、これ以上、ヘリオポリス周辺での戦闘は認められんし」
本当にどうするべきか。
ギナはそう呟くと再び考え込んでいた。