愛しき花

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「どうしてもだめか?」
 ムウがこう問いかけてくる。
「無理です。どうして藻というなら、俺たちはここで下ります」
 どんな手段を使ってでも、とカナードは言い返す。
「カガリ一人ならつれて逃げ出せますしね」
 相手が何人いようと、と付け加える。
「あぁ……お前なら可能かもしれないな」
 ため息とともにムウは呟く。
「でも、やめてくれると嬉しいんだが」
 いろいろな意味で、と彼は続けた。
「なら、俺たちに強要するのはやめてください。そのくらいならば、あれのOSを元に戻しますから、あなたが乗ればいいでしょう」
 もっとも、とカナードは笑う。
「出撃した次の瞬間、撃ち落とされるかもしれませんが」
 これは冗談でも何でもない。あのOSでは機体の性能を引き出すどころか動かすことで精一杯だろう。まして、操縦するのがナチュラルならばなおさらだ。
 もっとも、と心の中で付け加える。
 目の前の人物を普通のナチュラルの範疇に入れていいのかどうか。かなり悩むところではある。
 だが、撃墜されることだけは間違いない。それは彼の実力と言うよりも機体に対する習熟度の違いだ。
 それに関しては、どうしてもザフトに一日の長がある。
「俺としては、まだ、あの世に行きたくないんだが」
 ムウもそれは自覚しているのだろう。いやそうな表情で彼はそう言い返して来る。
「それに、この艦には他にもオーブの民間人が乗っているし」
 視線だけをドアの方に動かしながらムウはさらに言葉を重ねた。
 そちらに誰かがいると言うことは気配でわかる。まだ、彼の正体をばらすわけにはいかないのだろう。
「それも、お前たちが勝手に連れてきたんだろう。当然、保護するのはお前たちの役目だ」
 違うのか、とカナードは言い返す。
 このセリフにカガリは何か言いたそうだ。しかし、状況を呼んでいるのか。しっかりと口をつぐんでいる。
「こっちにもいろいろと都合というものがあってな」
 苦笑とともにムウは言葉を口にした。そのまま、カガリへと顔を向けると口元に人差し指を当てる。次の瞬間、彼はそっとドアの方を指さした。
 その意図を理解できたのだろう。カガリは小さくうなずくと立ち上がった。そして、気配を消してドアに近づいていく。そこで彼女は振り向くと何かを確認するようなまなざしを向けてきた。
 カナードが小さくうなずいてみせる。
 次の瞬間、カガリはドアを全開にした。
 予想通り、と言っていいのだろうか。
 まるで転がるように人影が室内へと入ってきた。その中の一人はあの黒髪の女性士官だった。
「信用されてないのか、あんたは」
 あきれたような口調でムウに問いかける。
「って言うか、寄せ集めだからな、この艦は」
 自分は元々、この艦のクルーではない。乗っていた艦が撃墜されたからこの艦に移動してきた。彼はそう続ける。
「あれらのパイロットを運んで来たんだよ」
 全く、こうなるとわかっていればもっと護衛を増やしたのに。ムウはそう言ってため息をつく。
「そうなれば、アスハとサハクから抗議が言っただろうな」
 カガリが憎々しげにそう言う。
「この戦力であちらに勝てるわけないだろうに」
 それは言い過ぎだ。
「カガリ。馬鹿を刺激するな」
 だが、同じことを考えていたせいで、ついついこんなセリフが口からこぼれ落ちてしまう。
「貴様ら!」
 案の定と言っていいのだろうか。彼女がかみついてくる。
「だから、俺たちはオーブの人間であって、地球軍とは関係ない。最初からそう言っているだろう」
 それを理解できずにそちらの都合だけを押しつけてくる。そんな人間を『馬鹿』と言って何が悪い。カナードはそう主張した。
「やっぱり、強引にでも下りるか?」
 カガリに問いかける。
「それがいいと思います」
 彼女はすぐにこう言い返してきた。

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最遊釈厄伝