愛しき花

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 何かおもしろくない。
 目の前で楽しげな表情を作っているキラとアスランを見つめながら、シンは心の中でそう呟いた。
「……シン」
 そんな彼の隣であきれたようにレイが口を開く。
「そんな表情をしていると、キラさんが悲しむぞ」
「何で?」
 彼の言葉の意味がわからずにシンは聞き返す。
「お前がアスランを嫌っていると思うからだ」
 ますます意味がわからない。
「カガリさんの婚約者だろう、彼は。つまり、キラさんにとって身内だ」
 アスランにとっても似たようなものではないか。レイは冷静に言葉を重ねる。
「身内を嫌われて悲しまない人間なんていないだろう?」
 そう言われればそうかもしれない。でも、とシンはため息をつく。
「だけどさ。なんて言うか『仲がいいんです』って見せつけられるとむかつかね?」
 しかも、自分が知らない話題で盛り上がられては。そう付け加えた。
「オコサマだな、お前は」
 それにレイがこう言ってくる。
「レイ」
 どういう意味だ、と思いながら彼の顔をにらみつけた。
「お前だって、キラさんとの思い出はあるんだろう?」
 それで対抗する方がいいのではないか。彼はそう言う。
「同じような反応をアスランがするかもしれないぞ」
 それはそれで楽しそうだ。その言葉の裏に、実はレイも同じような気持ちを抱いていたのではないか、とシンは判断する。
「でも、そんなにないぞ」
 自分がキラと一緒にいたのは少しの時間だけだ。ひょっとしたら、レイの方が長いかもしれない。
 それでも、レイならば自分の知らない話をキラとしていても気にならないのだ。
「どうかしたのか、二人とも」
 そんな会話を交わしていたのが気になったのか。アスランが問いかけてくる。
「キラのご両親の話は懐かしいな、と」
 にこやかな口調でレイが言い返す。そう言うところはさすがだ。自分ではすぐに言葉が出てこなかったはずだ。
「シンもレイも会ったことがあったね、そういえば」
 キラがすぐに反応をしてくる。
「父さんもシンのことは気になっていたみたいだし」
 一人でプラントに行かせたから、と彼女は重ねた。
「……おじさんが?」
「男の子が欲しかったんだよね、父さん」
 だから、シンがかわいかったのだろう。彼女はそう続けた。
「俺のことを可愛がってくれたのも、そのせいか?」
「あぁ。そうかも」
 もっとも、月にいた頃のアスランは、半分以上うちの子状態だったけど。キラは苦笑とともにそう続けた。
「だから、カガリとの婚約が決まったときはすごく喜んでたよ、父さん」
 そう言って、彼女は目を細める。
「そうか」
 アスランが柔らかな笑みを浮かべた。彼のそんな表情をシンは初めて見ると言っていい。
「もっとも、カガリのフォローは大変だろうけど、って言っていたけど」
 それがどうしてなのかは確認しなくてもわかる。
「あの人は強烈だから」
 苦笑とともにシンはそう言った。
「あいつはあのくらいでいいんだ」
 アスランはそう言って苦笑を浮かべる。
「あいつノア千葉では、だ。まぁ、俺としてはどこで暴れているのか、その方が怖いが」
「否定できない」
 アスランの言葉に、キラがすぐに同意した。
「まぁ、被害を被るのは本人じゃなくて周囲だろうけど」
 実はカガリに一番辛辣なのは彼女ではないだろうか。そう思うようなセリフをキラは口にしてくれる。それに周囲から失笑が漏れたのは仕方はないことだろう。

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最遊釈厄伝