愛しき花
21
キラが持ち込んだデーターを見て、ラウは眉根を寄せる。
「間違いなく、あれらの機体のものだろうね」
まさか、学生まで利用していたとは思わなかった。彼はそう続ける。
「ラウさん」
そんな彼にキラが不安そうなまなざしを向けてきた。
「君はなにも心配しなくていい。知らなかったのだろう?」
知らせずに利用していた地球軍の方に非がある。彼はそう続けた。
「それよりも、これがあればアスラン達の作業が楽になるか」
コピーを取らせてもらってもかまわないね? とラウはキラに視線を向けて来た。
「僕の立場からすれば、本当はいけないのかもしれないけど……アスランのためなら、いいかなって」
少なくともカガリがフォローしてくれるだろう。キラはそう考えている。
「君は何も知らなかったことにしていてもかまわないよ。私がそうだと判断したと言えば、皆は納得するだろうからね」
サハクの二人は特に、と彼は笑う。
「逆に君にそんなことをさせたとセイランに怒りは向かうかもしれないが」
キラはあくまでも被害者だ。さらにラウは付け加えた。
「教授は……」
その場合、カトーは大丈夫なのか。そう思わずにいられない。
「そこまではわからないね」
さすがに、とラウは苦笑を浮かべる。
「ただ、どうして君だったのか、と言う理由如何だろうね」
あちらがキラを指名してきたのか、それとも、単に優秀な生徒に作業をさせたのであれば、とりあえず無事だろう。しかし、そうでなかった場合はどうなるかわからない。それでもラウはこう教えてくれた。
「それ以前に、彼がまだオーブにいるかどうか。それが問題だと思うよ」
地球軍が拉致をしていった可能性もある。この言葉に、キラは表情を曇らせた。
「……無事でいてくれればいいんだけど」
その表情のままこう口にする。
「あまり深く考えないことだよ、キラ。カガリはともかく、ウズミ様はその点もきちんと考慮してくださるはずだ」
だから、あまり悩まないように。そう言うと、ラウはキラの頭をなでてくれた。
「もう少ししたら、アスランは待機時間になる。一緒に食堂にでも行ってくればいい」
気分転換になるだろう。彼はそう続ける。
「シンとレイだけでは不安だろうしね」
「そんなことはないですけど……」
苦笑とともにキラは言い返す。
「でも、久々にアスランと話しができるならしたいです」
月にいた頃の話とか、と続けた。
「わかった。連絡を入れておいてあげよう」
任せておきなさい、とラウは微笑む。
「はい」
本当は彼に迷惑をかけるべきではないのかもしれない。だが、彼がこう言ってくれたのだから、大丈夫なのではないだろうか。そう考えることにする。
「じゃ、僕は部屋に戻っています」
これ以上、ここにいてラウの仕事の手を止めさせるのは申し訳ない。自分が知らなくてはいいこともたくさんあるだろうし。
キラはそう判断するとこう言った。
「気にしなくていい。命令がなければ動けないというのは事実だからね」
それに、と彼は言葉を重ねる。
「私にも目の保養は必要だからね」
かわいげない部下の顔を見ているよりもキラの顔を見ている方が楽しい。
「そうなんですか?」
自分なんて平均レベルなのに、とキラは言外に告げた。
「そうだよ。そう考えているのは私だけではないしね」
だから、もっと自分に自信を持ちなさい。彼はラウはそう言う。
「好きな人ができたら、教えてくれると嬉しいね」
協力をしてあげよう。そう言われた瞬間、キラは自分の顔が赤く染まったことを自覚してしまった。